へやのおこり
 
 
 むかし、あるところに、おばあさんとその息子がいました。息子も年ごろになったので、つてをたのんでお嫁さんをもらうことにしました。

 お嫁さんはきだてもよく、はたらきものだったので、おばあさんは「ほんまにいい嫁ごがきてくれた」と、よろこびました。

 ところが十日もすると、お嫁さんの顔いろがわるくなってきました。わるい病気じゃないかとわけをきくと、お嫁さんはもじもじしながら
「はずかしい話やけどじつは、屁をひりたくてたまらないのです」
と、いいました。

 おばあさんはおおわらいしながら、屁なら誰でもひるものだし、えんりょしないですきなときにひればいいよといいました。

 すると、お嫁さんは「ほな、えんりょのうこかしてもらいますわ」と尻をまくってボカンといっぱつ大きな屁をひりました。その大きいことといったら、富士山が噴火でもしたんじゃないかと思うほどで、家はぐらんぐらんとゆれるし、おばあさんは屁に吹きあげられて、天井に頭をぶつけてしまいました。

「こりゃたまらんわ、こないな屁をこく嫁はよういらん。来てもらったばかりでわるいが、里へ帰ってくれ」

 おばあさんにそう言われて、お嫁さんはなくなく荷物をまとめて帰っていきました。

 お嫁さんがあるいてゆくと、大きな梨の木の下で、小間物屋さんとと呉服屋さんが、荷物をおろして休んでいました。

「はあ、くたびれた。のどがからからじゃ」
「あの梨に手がとどいたらええのう」
 ふたりはそういいながら梨の木を見あげていました。

 お嫁さんはいいました。
「そんなら私があの梨を落としてやろか」

 それをきいて、商人たちはおおわらい。梨は木にのぼっても手のとどかない高い枝になっていますし、石をなげてもあたりません。
「できるもんならやってみなはれ。梨が一個でも落ちてきたら、わしらの荷物はみんなやる」

 お嫁さんは、尻をまくって梨の木にむかっていっぱつ、ボカンと大きな屁をひりました。すると、梨の木がゆっさゆっさとゆれて、よくうれた梨がボタボタとおちてきました。

 できるはずがないと思ってした約束なのに、お嫁さんが梨をおとしてしまったから、商人たちはびっくりするやらあわてるやら。それでも約束だからと、大事な商売ものをお嫁さんにあげました。

 お嫁さんが荷物をかついであるいていると、あっちから婿さんが、お嫁さんの名前をよびながらあるいてきました。
「わしが留守のまにおかあが暇をだしたというからさがしに来たんじゃ。いったい何があったんや」

 そこでお嫁さんはこれまでのことを話しました。すると婿さんは
「おまえの屁のおかげで立派なお道具と反物が手にはいったのやから、おまえの屁は宝の屁じゃ。こんな宝女房を帰せるどうりがない」
といって、お嫁さんをつれて家にかえりました。

 それから婿さんは、母屋のほかに屁をひるためのはなれをたててやりました。それが屁屋(部屋)というもののおこりで、お嫁さんをもらったら、どこの家でもかならずたてるようになったということです。
 

 
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