熊女房(沖縄の昔話)
 
王様の船は嵐にあって沈んでしまった
 ある王様が中国に留学した時のお話です。
 学問をおさめて故郷の国へ帰るそのとき、王様の船はひどい嵐にあって沈んでしまいました。
 王様は、小さな島に流れついて助かりましたが、その島には人間がおらず、一頭のメス熊が住んでいました。
 
無人島に流れ着いた王様は熊と結婚して…
 その島で七、八年暮らすうちに、メス熊と気持ちが通い、やがて結ばれて男の子が生まれました。
 生まれた子供は人間の姿をしていましたが、背中に熊のような毛がはえていました。
王様と息子は国に帰り、熊だけが取り残された
 ある日沖縄の船がこの島のそばを通ったので、王様は国に帰れることになりました。王様は、熊に食べ物をさがしてこいと言いつけて、息子だけを連れて船に乗ってしまいました。
 自分だけ取り残されたことに気づいた熊は、息子と夫を乗せた船をいつまでも見送っていました。
 
 こうして、王様と熊の息子は国に帰りつきました。けれども、熊女房の息子は母親が恋しいといって泣いてばかりいます。
 王様は「おまえの母親は、もう死んでしまったよ」と言ってなだめようとしましたが、息子は聞きません。死んだのならクシタマ(遺骨、または魂?)が残っているはずだと言うのです。
 王様も、一度は妻にした者を置き去りにしたことが悔やまれて、息子と一緒に島にもどってみると、熊は息子を見送る姿のままクシタマになっていました。
 王様と息子は熊のクシタマを国にはこんで、立派なお墓をたてて葬りました。

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◆沖縄には熊がいないのに?

 このお話は沖縄の昔話ですが、沖縄には熊はいません。熊がいないのに、熊と結婚する話だなんておかしいと思いませんか?

 王様は遭難中に熊に出会っているので、たまたま熊のいる土地に流れ着いたとも考えられるのですが、ただのお話ならば熊にこだわる必要はないはずです。たとえば「遭難中にシャチに助けられて結婚しました」でも物語は成り立ちそうです。

 そこで浮上してくるのが韓国の 檀君神話(人間になった熊) の影響です。熊と結婚するのが王様(檀君神話では、地上を治めるために来た神の子でしたが)であること、故郷を遠くはなれた土地の出来事であることなど共通点が多いのです。

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