人間になった熊(韓国の伝説)
 
熊と虎
 むかし、熊と虎がひとつの穴で一緒にくらしていました。
 ある日、空からえらい神様がおりてきたのを見て、ふたりは自分も人間の姿になり家来にしてもらおうと考えました。
「神様、どうかわたしたちを人間にしてください。そのためになら、どんな苦しいことにもたえてみせます」
 
ヨモギとニンニク
 熊と虎の決心がかたいのを見て、神様はこう言いました。
「ここにヨモギが一束と、ニンニクが二十個ある。百日のあいだ洞窟にこもり、ヨモギとニンニクだけを食べ、太陽の光をあびずに暮らすがいい。そうすれば人間になれるだろう」
熊女
 熊と虎は、さっそく穴にこもりましたが、虎は短気をおこして出て行ってしまいました。熊は神様のいいつけをまもり、穴ごもりを続けたので、百一日目に人間の女になることができました。
熊女の結婚
 せっかく人間になれた熊ですが、結婚する相手もおらず、ひとりぼっちでした。そこで熊女は神様に祈りました。
「神様、わたしに男の子をさずけてください」
 その祈りをきいた神様は、うるわしい青年の姿にになって熊女とむすばれました。
朝鮮の麗しい青年の服装ってどんなんだ?
檀君
 やがて熊女は男の子を産み落とし、檀君(タンクン)と名付けました。
 檀君は神様の仕事を手伝い、やがて地上の王になりました。千五百年のあいだ王様として国をおさめ、千九百八歳で亡くなったということです。

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◆古朝鮮の建国神話

 このお話は古朝鮮の建国にまつわる伝説です。
 人間になった熊のことは韓国語でウンニョ(熊女)といいます。ウンニョと結婚した神様はファンウン(桓雄)といって、天界の王子様です。

 地上がまだ出来たてのホヤホヤで混乱していた頃、ファンウン王子はお父さんの許しをえて地上を開拓するために降りてきました。
 王子様は、まず風伯、雨師、雲師(風の神、雨の神、雲の神)に命じてお天気を支配し、田圃や畑をつくるのにいいようにしました。
 それから、コシレ(高矢来)に命じて大地をたがやして、天からもってきた作物の種をまきました。
 また、医術を広め、法律を定めるなど、三百六十あまりの事業をなしとげて、国の基礎をつくったと言われています。

 ファンウン王子とウンニョの息子であるタンクン(檀君)は、父の仕事をひきついで王様になり、国の名前を朝鮮と決めました。十四世紀に成立した李氏朝鮮と区別するために、タンクンの国は「古朝鮮」と呼ばれています。

 そのころ中国では尭帝即位後五十年の庚寅年ということですから、今から4000年以上も昔の出来事だと言われています。


◆熊と虎

 ありがちなところでは、熊の神を崇拝する民族と、虎の神を崇拝する民族がいて、大陸からやってきた騎馬民族の王子が、熊の民の娘とまじわったとでも解釈するのでしょうが、ここでは生物としての熊と虎の生態に注目してみましょう。

 朝鮮半島に住む熊といえばヒグマのことでしょうか。ヒグマは夏のあいだに交尾をして、冬になると冬眠のために穴にこもって出産します。穴ごもりの期間は 4.5〜6.5カ月といいますから、神様(ファンウン)が命じた百日間の穴ごもりを毎年していることになります。

 人間になった熊(ウンニョ)には夫がおらず、神様であるファンウンと結婚して子供をもうけますが、これは熊がメスだけで子育てすることと関係がありそうです。メスだけで穴にこもるのに春になると子供をつれて出てくるのを見て、昔の人は夫のいないメス熊がひとりで子供を産んだように思ったのかもしれません。

 虎も岩穴などにこもって子供を産みます。メスだけが子育てをするのも熊と同じです。けれど虎は冬眠をする生き物ではないので、百日の穴ごもりにたえられなかったのでしょう。
 こうして見ると、この伝説は動物の性質をよくとらえた物語のような気がしてきます。

 ところで、沖縄の昔話に無人島に流れ着いた王様が熊と結婚する話があります。どうやらウンニョの物語と関係がありそうですが... 

 熊女房(沖縄の昔話)


◆ニンニクとヨモギ

 ニンニクとヨモギは古くから知られた薬草です。ニンニクは疲労回復に効果があり、ヨモギは子宮をあたためて月経をととのえる効果があるので妊娠中の女性によい薬草だそうです。

 ニンニクもヨモギも強い香りのある植物ですが、この香りには邪悪なものを追い払う力があると言われています。日本でも、端午の節句にヨモギで作った草餅を食べますが、韓国でも同じような習慣があります。

 [参考]ヨモギにまつわる昔話

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