唐辛子売りと柿売り(日本の昔話)
 
唐辛子売り
  唐辛子を商う男がいました。唐辛子をたくさん入れた篭をしょって、町から町へと売り歩くのが仕事です。
 ある寒い冬の日のこと、立ちよった町で商売をはじめましたが、この日にかぎって誰も唐辛子を買ってくれません。もうすぐ日が暮れてしまいますが、今夜の宿代もありません。仕方がないので町はずれのお堂に泊まることにしました。 
ケチな柿売り
 お堂には先客がいました。唐辛子売りと同じように宿にあぶれた柿売りでした。やはり商売がうまくいかず、宿に泊まれなかったようです。ふたりはお堂で夜を明かすことにしました。
 夜になると寒さが厳しくなってきました。だんだんお腹もへってきます。唐辛子売りがブルブルふるえていると、甘くて美味しそうな匂いがしてきました。見ると、柿売りが売り物の柿をムシャムシャ食べているではありませんか。
んげ、1コマ目と服がちがう〜

「のう、柿売りどん、ワシにもひとつ柿を分けてくれんか」

 唐辛子売りがそう言うと、柿売りはこう言いました。

「いいとも。じゃが、これは大事な売り物だ。タダというわけにはいかんな」

「ワシは金をもっておらん。売り物の唐辛子と交換でどうじゃ」

「唐辛子なんぞもらっても役にはたたんなぁ」

「そう言わず、分けてくれぬかのう。お金はあとで払うから」

「どこの誰ともわからぬ者に、ツケでは売れぬよ。金がないならあきらめることじゃ」

 そう言って、柿売りは自分の売り物を美味しそうに頬ばりました。


唐辛子を食ってやる
 なんと強欲な男でしょう。唐辛子売りは空きっ腹を煮えくりかえらせ、もう少しで柿売りに殴りかかるところでしたが我慢しました。
「ちっ、そんな渋柿、たのまれたって食うもんか。ワシはこれで充分だ」
そう言って唐辛子売りは、売り物の唐辛子を全部食べて、ふてくされて寝てしまいました。

 夜があけて、目がさめると、隣で柿売りが死んでいました。どうやら寒さのせいで凍えてしまったようです。ところが唐辛子売りはピンピンしています。寒いどころか、体がポカポカして汗をかいているくらいです。

 昔から、柿をたべると体が冷えるといいますが、本当のことなのです。そして、唐辛子を食べると体があたたまるというのも本当のことなのです。
 

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◆唐辛子と柿

  唐辛子は南米原産の植物です。コロンブスがアメリカ大陸を発見したことでヨーロッパに伝えられました。アジアへは海を通って東南アジアや日本に伝えられ、さらに朝鮮半島に持ち込まれた説が一般的ですが、大陸経由で中国からもたらされたとも言われています。

 唐辛子は血行をよくする食べ物です。寒い日に食べれば体が温まり、暑い日に食べれば汗が出やすくなって体温が下がります。暑い国々では夏バテ防止に唐辛子を食べ、寒さの厳しい国では体を温めるために唐辛子を食べるようになりました。
 日本ではあまり普及せず、薬味として少しだけ使われていますが、韓国では毎日の食事にかかせない香辛料です。

 一方、柿は昔から日本や中国に自生していた植物です。ビタミンCを含み、優れた利尿作用があって体にいいのですが、食べ過ぎると体が冷えると言われています。


◆唐辛子にまつわるあれこれ

 唐辛子といえば辛いものです。そして、傷口や目に入ったときの痛いことといったら並大抵のことではありません。
 日本の有名な昔話『かちかち山』では、賢いウサギが悪いタヌキをだまして大やけどを負わせた上に、やけどの薬だといつわって傷口に唐辛子を塗りこんで懲らしめます。

 韓国の昔話でも、唐辛子は悪者を懲らしめるために使われます。
 日本の昔話では、化けタヌキや悪賢いサルなど、悪役の凶暴さもたかが知れていますが、韓国では人食い虎がその役目をはたします。日本でも熊が人里におりてきて大騒ぎになることがありますが、朝鮮半島にはチョウセントラが住んでいますから、人食い虎は身近な恐怖だったのでしょう(今では数が減って絶滅寸前とのことですが)。
 人食い虎は唐辛子の入った水を飲まされたり、唐辛子をたっぷりふりかけた手ぬぐいで顔をぬぐわれたりして、ついにはやっつけられてしまいます。

 唐辛子のことを韓国語ではコチュといいますが、オチンチンを意味する単語と同じ発音だそうです。形が似ているからだということです。
 韓国には男の子が生まれると家の前に唐辛子を飾る習慣があるそうです。そうすると親類や近所の人がやってきてお祝いを述べながら、赤ん坊のオチンチンを見たいと言ったりするそうです。


 

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