語り部屋珍獣の館山海経博物誌直前に見たページ
姉さんはホトトギス、弟はモズ?
 ホトトギスの兄弟という話がある。
 目の見えない兄は弟が自分に隠れて美味しいものを食べていると思いこみ、弟を殺して腹を割いてみる。ところが弟の腹には粗末な食べ物しか入っておらず、兄は自分の心がねじ曲がっていたことに気が付いて、ホトトギスになって飛んでゆく。オトトコイシ(弟恋し)と鳴きながら。多少の変化はあるものの、各地で同じような話が語られているそうだ。

 宮崎の民話では目が見えないのはホトトギスの姉で弟はモズである。ホトトギスとモズという別種の鳥が姉弟というのは昔話ならではのファンタジーというわけではなく、昔の人の自然に対するするどい洞察から来るものだと思う。

 ホトトギスは自分では子育てをせず別の鳥に卵をあずける託卵というのをする。託卵相手の資料が手元にないが、近い仲間のカッコウはモズを託卵先に選ぶそうだから、ホトトギスもモズの親に育てられるということがありそうな気がする。つまりホトトギスとモズは乳兄弟ともいえる間柄なのだ…鳥に乳房はないけれど。

 人の子供が約十ヶ月で生まれてくるように、鳥にも抱卵期間というのがあって、卵の中にいる日数がだいたい決まっている。ホトトギスは託卵相手よりも抱卵期間が短いので真っ先に卵から出てくる。そして乳兄弟の卵を片っ端から蹴落としてしまう。

 そうとは知らず、仮親は巣に残ったホトトギスに餌を与え続けるのだが、数日もするとホトトギスのほうが親よりも大きく育ち、それでもまだ口をあけて餌をねだり続ける。これが心の曲がった弟と、それに奉仕する姉に見えるのだろうか。

 ところで、昔話ではモズが姉にだけ美味しいものを食べさせて、自分は気味の悪い虫を食べるということになっているが、モズもホトトギスも虫を食べる鳥なので、「虫」を粗末な食べ物とするのは妙な気がしてならない。

 そういえばモズには「はやにえ」という習性がある。獲物の虫やカエルを木の枝に刺して取っておくのだが、自分では滅多に食べに戻らないという。これをホトトギスの姉のために貯蔵していると見れば話が通じそうだ。
 

今昔かたりぐさ「ホトトギスの兄弟」
 
 
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