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アイダンと万里の羊(中国・ナシ族)
あるところにアイダンという頓知(とんち)のきく男がいました。アイダンは、ひょんなことからムー旦那のおかみさんを殺してしまいます。死んで閻魔(えんま)様の前にやってきたおかみさんは自分がアイダンに殺されたのだと訴えます。調べてみると確かにアイダンが犯人のようでしたから、閻魔様は白無常鬼と黒無常鬼にアイダンを連れてくるように命じました。 ふたりの鬼がアイダンの家までやってくると、アイダンは涼しい顔をしてこう言いました。
羊の舌の料理はごちそうです。鬼たちは舌なめずりしながら言いました。
アイダンの口車にのって、まずは白無常鬼が小窓から舌を出しました。アイダンは大きなハサミをもってきて、鬼の舌をチョキンと切ってしまいます。
口をおさえて苦しんでいる鬼たちを尻目に、アイダンは遠くへ逃げてしまいました。白無常鬼は命を吸い取る傘をひろげて追いかけようとしましたが痛くてそれどころじゃありません。黒無常鬼も投げれば罪人をからめ取る鎖を投げようとしましたが切られた舌が痛くて狙いが定まりませんでした。 鬼たちがひどい目にあって帰ってきたのをみて、閻魔様は大激怒。自分でアイダンを捕まえることにしました。千里の馬にまたがってアイダンの家の前までくると、恐ろしい声でこう言いました。
すると、アイダンは奥から一頭の羊をつれて出てきました。
自分の馬よりも速く走るときいて閻魔様は羊がほしくなりました。
こうして、ふたりは着物をとりかえて、アイダンは閻魔様の千里の馬に、閻魔様はアイダンの万里の羊にまたがって閻魔庁へ向かいます。ところが、羊はちっとも速く走らない。だまされたと気づいた時にはアイダンは遠くへ行ってしまい、姿が見えなくなっていました。 閻魔様の服を着て、千里の馬に乗ったアイダンは、閻魔庁までやって来ると、迎えに出た鬼たちにこう言いました。
筑摩書房『石の羊と黄河の神』より
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