金毛羊(ギリシア神話)
◆雲から作られたネペレー
ギリシアで一番えらい神様のことをゼウスといいます。一番えらいんですから、誰からも愛されていたかっていうとそうでもなくて、なぜか敵も多いんですよね。イクシオンという男もゼウスの敵のひとりでした。彼はゼウスの妻であるヘラを誘拐して、ゼウスを困らせてやろうと考えました。
ゼウスもだまってやられてはいません。空の雲をあつめて妻そっくりの姿にして、ネペレーと名づけました。イクシオンはすっかりだまされて、ネペレーをさらって逃げてゆきました。
その後、イクシオンの方は捕らえられて、残酷な刑罰をうけることになりましたが、ネペレーはあちこちで人や獣たちに愛されては捨てられました。ボイオティアの王アタマスとの恋もそのひとつです。
◆継母イノーの悪だくみ
アタマス王はネペレーを愛し、プリクソスとヘレーという子供をもうけました。それなのにイノーという別の女の人を好きになって、ネペレーをオリュンポスに帰してしまいました。
新しい王妃のイノーは、ネペレーの子供たちを憎み、悪だくみをしました。春になって畑にまく種を火であぶって芽が出ないようにしたのです。作物の芽が出なかったので、国中の人々は飢えて苦しみました。
アタマス王は神々にお伺いをたてることにしましたが、イノーは神官たちに賄賂をやって「ふたりの子供を犠牲として神にささげよ」というウソのご神託を伝えさせました。
◆金毛の羊に乗って
イノーの悪だくみを知ったネペレーは、子供たちを助けてくれるよう、ゼウスにたのみました。ゼウスは翼のある金の羊を作り出して、プリクソスとヘレーのところへ送ります。
ふたりは羊にのって逃げ出しましたが、途中で妹のヘレーが目をまわして海に落ちて死にました。アジアとヨーロッパの境目にある海峡で、それからこの海のことをヘレスポントス(ヘレーの海)と呼ぶようになりました。今で言うトルコのダーダネルス海峡のことです。
妹を失ったプリクソスは、金の羊に乗ったままコルキスにたどりつき、その国の王様にあたたかく迎えられました。プリクソスはゼウスへの感謝のしるしとして金の羊を犠牲にささげ、その毛皮はコルキスの王様に贈りました。
コルキスの王は貴重な毛皮を誰にもとられないように、軍神アレス(マルス)を祀る神聖な森の大木にかけて眠ることのない龍に守らせました。
◆イアソンの冒険
時は流れて、イオルコスという国にイアソンという青年がいました。彼はイオルコスの王位継承者で、国民にとても好かれていました。イオルコスの国王は、イアソンの叔父であるぺーリアスでしたが、このままでは甥のイアソンに王位を奪われると考えて、無理難題をおしつけて国から追い出してしまおうとたくらみました。コルキスにある金羊の毛皮をうばって来いというのです。
イアソンは仲間たちとともにコルキスに向かいましたが(この遠征隊のことをアーゴシーといいます。アルゴー号という船の乗組員だからです)、毛皮をうばおうとしてコルキス王につかまってしまいました。
けれども王の娘メデイアが、美しいイアソンに恋をして彼を牢から救い出しました。イアソンはメデイアとともに金羊の毛皮をさがしに森へむかいましたが、夜も昼も眠らない火の龍が行く手をはばみます。そこで呪術のこころえのあるメデイアが魔法の子守歌をうたい龍を眠らせました。
こうして金羊の毛皮を手に入れたイアソンは、故郷に帰り王位につきました。その後、金羊の毛皮は天にかけられて星になったと言われています。現在おひつじ座と呼ばれているのはイアソンが取りに行った金毛羊の姿なのです。 |