その他の飛ぶ獣たち

 
飛鼠   ヒソ
飛鼠
 獣がいる。そのかたちは兎のようで鼠の首、その背中で飛ぶ。名は飛鼠(北山経三の巻)
絵・文とも『山海経』より

 
 中国ではコウモリのことを飛鼠と言う場合もあるようだが、ムササビのことを飛鼠と書くこともあるようなので、どちらとも言えない。この挿し絵はコウモリよりはムササビのつもりかもしれない。
 それに、ムササビは翼ではなく足の間の膜で飛ぶので、背中の皮を広げて飛んでいるようにも見える。
 飛ぶ獣といえばモモンガも無視できない。モモンガも手足の間にある膜を広げて滑空するが、ムササビよりは飛ぶのがうまくない。 モモンガ
モモンガ
 中国にいるのはタイリクモモンガという種類で、ユーラシア大陸の北部に広く住んでいる。木のうろなどに住んでいて、植物質のものを好んで食べる。

 
ジソ
耳鼠
 獣がいる、そのかたちは鼠のようで兎の首、麋(なれしか)の身、その声は犬のほえるよう、尾で飛ぶ、名は耳鼠。これを食うと腸満にならない。またあらゆる毒気をふせぐのによい。(北山経一の巻)

 
 鼠のようで飛ぶというのだから、ムササビかモモンガと考えるのが普通だろう。特にムササビは体長より長いくらいの立派な尾を持っていて、尾で飛ぶという表現は似合っている。
 漢方では、今でもムササビの仲間の糞を使うことがある。服用すれば血液が滞るのを治し、解毒剤として毒蛇などの咬み傷に使うこともあるそうだ。

 珍獣はムササビやモモンガの鳴き声を聞いたことはない。
 ものの本によれば、ムササビは「ぐるるる」と鳴くそうだ。アイヌ語でムササビのことをイフンケカムイというのだが、これは子守歌の神という意味。アイヌは「trrrrrrr」と、舌をまわして子供をあやすので、それがムササビの声に似ているのだろう。
 モモンガは「ジュクジュクジュク」などと鳴くそうだ。やはり犬のようではないらしい。暗い森の中で何が鳴いているのかを確かめるのは難しいので、別の生き物の鳴き声と勘違いされているのだろうか。

 麋(大型の鹿)の身というのもよくわからない。
 鹿の怪で紹介した獣たちも「麋のようで」と書かれたものが多いが、ムササビやモモンガにも適用されるということは、体の形や大きさではなく、毛皮の色や手触りのことなのだろうか?


 
 
トウコ
当扈
 鳥には当扈が多い。そのかたちは雉(きじ)のようで、その髯(喉の毛)で飛ぶ。これを食べると目まいをしない。(西山経四の巻)

 
 鳥だと書かれているし、キジのようとも言っているので、鳥の怪として扱うべきかもしれないが、翼ではなく頬ヒゲで飛ぶというので獣の仲間にいれてみた。
 耳で飛ぶならダンボだろうが、ヒゲで飛ぶというのはすごい。そういえば、ムササビは頬に白い毛が目立つので、この毛を広げて飛ぶように勘違いされていたのだろうか??

 
 
 鳥と虫以外で空を飛ぶ生き物というと、コウモリ・モモンガ・ムササビをぱっと思いつくのだが、ほかにもいくつかいるようだ。
 東南アジアにいるにいるヒヨケザルも、まさしく飛ぶ獣。名前はサルだが、サルの仲間ではない。手足の間に膜があってムササビやモモンガとも似ているが、この仲間でもない。じゃあ、何者なのだと聞かれたら「ヒヨケザルでございます」としか答えようがない。
 また、やはり東南アジアにいるトビトカゲも飛ぶ獣(爬虫類だが)と言えそう。肋骨が長くのびて腹の両わきに突き出しており、そこに皮膚がかぶって翼のようになっている。翼というより、魚の背びれが脇腹についている感じだ。
 参考までに絵を添えようかと思ったが、どちらもよっぽどの珍獣らしく、写りのいい写真がみつからなかった。
 
 
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