挿し絵はありません トウトウ
トウトウ

 獣がいる。そのかたちは豚のようで珠を持っている。名はトウトウ。鳴くときに自分の名を呼ぶ。(東山経一の巻)--225

 
 
 
 トウトウについては郭璞先生も何も書き残してはいないし、手がかりになりそうな特徴といえば「珠を持つ」という部分くらい。
 珠というのは、真珠のこと。あるいは不思議な力を持つ宝の珠のことだが、同じ様なものを龍も持っている。
 
 
 
龍 龍と玉
 インドの神話に、龍の王様の脳のなかから玉が出てきたという話があり、この玉を手に入れるとなんでも願いがかなうと言われている。

 この玉をマニ宝珠といって、神や仏の御利益の象徴のようになっている。お地蔵さんの石像は、片手に錫杖をもって、もういっぽうの手に玉をのせているが、この玉もマニ宝珠である。

 昔から龍の姿を描く時には、こんなふうに玉を持たせるものだが、こんな神話がもとになっているのだろう。

 
 
 
 「珠を持つ」というトウトウも、龍のような絶大な力を持つ生き物なのだろうか?
 
 
 かなり突飛な話になることを覚悟して、大風呂敷を広げてみよう。

 ゴウユのところでも紹介したが、インドにはイノシシが出てくる有名な神話がある。悪魔が水没させた大地を、イノシシに変化したヴィシュヌ神がひっぱりあげたというのだ。

 また、ヴィシュヌ神にはこんな話もある。
 不死の妙薬であるアムリタ(甘露)を手に入れるために、神々は協力して海をかき混ぜることにした。

トウトウ 珠を持つ豚ってのは、こんなんでしょうか。

 神々はマンダラ山をひっこぬき、それにヴァースキという巨大な竜を巻きつけて、綱引きのように両側から引き合って山を回転させた。
 すると海の底に穴があいて山が沈みそうになったので、ヴィシュヌ神は大きな亀に姿を変えて甲羅で山をささえた。

 そうしているうちに海水が乳のようになり、中からアムリタをはじめとする様々な宝が生まれてきた。
 この時、海の中から生まれたもののひとつに、カウストゥバという宝石がある。これはヴィシュヌ神の持ち物になったと言われている。
 

 
 珠ひとつの手がかりでずいぶん話がひろがるものだ。ついでなので、もっとひろげてみようかと思う。

 豚のようとは、豚に似たというだけでなく、豚のように丸いとか、肥えているというような意味にも取れそう。また、豚と言えば糞を食べる生き物だ。東南アジアや沖縄などでは昔から豚小屋の上に便所を作る。人糞を豚の餌にするためだ。人の排泄物を豚が食べ、豚の糞は畑の肥やしにされる。良くできたエネルギー循環システムである。

 さらに「珠を持つ」という特徴。
 そこで思い出すのはエジプトの壁画に良く見られるスカラベというコガネムシの一種。

 スカラベは動物の糞を玉にして中に卵を産みつけるため、フンコロガシなどとも呼ばれる。古代エジプト人は、フンコロガシが糞を丸める動作を太陽を転がす姿に見立てて、神聖な生き物とした。また、エジプトでは太陽神に三つの名前がある。夕方はアテム、昼はラー、朝はケペルというのだが、朝日をあらわすケペルをフンコロガシの象形文字で表記するのだ。

 そしてトウトウは朝日の昇る東の地方の生き物。これは出来すぎた偶然?!
 

 
 
スカラベ
 スカラベはコガネムシやカブトムシの仲間の総称。狭い意味では動物の糞を食べ、糞の中に産卵するコガネムシの仲間をさす。とくに、糞玉を作って転がして運ぶ種類のことをスカラベと呼ぶようだ。
 日本にも糞玉を作るスカラベの仲間が何種類かいるが、エジプトのスカラベのように糞玉を転がして歩くのはいないようだ。ちょっとがっかり。
追記(1999.11.16) : ↑を書いてから気づいたんですが、日本でも、マメダルマコガネが小さな糞玉を転がすのが確認されているそうです。
 
 
 
 いくらなんでもこじつけ度が高すぎるような気もするが、そんな最初からわかってること気にしちゃだめなのである。次いきましょう、次。
 
 
 
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