それは小学四年生の秋のこと。
 明日は秋の大運動会が開催される日だったが、クラス対抗リレーのことを考えると気が重かった。
 リレーに出ると言えば、ふつうは足の速い子だと思うだろう。でも、ちよ子の学校ではちがっている。運動会のリレーはクラス全員が参加しなければいけないのだ。
 校庭のグラウンドを、ひとり四分の一周ずつ走る。ひとクラスだいたい四十人だから、グラウンドを十周するとゴールすることになる。生徒の数が少ない時は、最初に走った子がもう一度走って頭数をあわせることになっている。
 ちよ子はかけっこが苦手だ。徒競走はまだいい。ビリになって恥をかくのは自分だけだから。でも、クラス対抗リレーは事情がちがう。自分のせいでクラス全員が迷惑する。
 ----そんなの気にすることないよ。クラス対抗リレーなんて参加することに意義があるんだし。
 うかない顔のちよ子にお友達はそう言ってなぐさめてくれた。
 口ではみんな同じことを言う。
 でも、そんなの本心じゃないのだ。リレーには勝ち負けがある。誰だって勝てるものなら勝ちたいのだ。
 去年の運動会のこと。クラス対抗リレーの本番で、ちよ子は転んでしまった。
 それまでトップだったのに、ちよ子が転んだせいで、クラスは最下位になってしまった。
 ----あんたって、本当にどんくさい子よね。
 ----お前が転ばなければ一等になれたんだぞ!
 みんなが口々にちよ子をせめた。
 迷惑なのはわかってる。参加しなくてすむものなら、自分だって出たくなんかないのに。
 明日は秋の大運動会だ。
 病気のふりをしてズル休みしようか。
 それでは、ちよ子の走る分を、別の子が走ることになる。前からそのつもりで練習していればまだしも、急にふたり分走れと言われたら、やっぱり迷惑だと思う。
 大雨になればいい。そうすれば運動会は中止になる。
 けれど、秋晴れの空はどこまでも高く、雨がふる気配なんて、これっぽっちもなかった。
 

 
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