ちよ子は、学校から帰ると、幼稚園のころに買ってもらった黄色い小さな傘を手にして家を出た。金山の雨の神様におそなえしようと思ったのだ。
 神様がどんな傘を気に入ってくれるかわからなかったので、小さい頃に大事にしていた傘をお供えすることにしたのだ。
 今はもう使っていない傘だから、なくしても誰にも叱られない、そんな思いもあった。

 家のそばからバスに乗って、金山神社参道前でおりた。それから、車がやっと通れるような道を三十分くらい歩くと、朽ちかけた木でできた鳥居が見えた。鳥居の向こうには小さな祠がある。
 祠のまわりには人気はなく、ときおり鳥が鳴くのが聞こえるほかは、しんと静まりかえっていた。
 ちよ子は鳥居をぬけて祠の前まで来ると、家からもってきた黄色い傘を祠の格子戸に立てかけた。
 傘の柄に「ながやまチョコラ」と書いてある。
 チョコラというのはちよ子のあだ名だ。お父さんも、お母さんも、幼稚園の先生も、みんながちよ子のチョコラと呼ぶので、小さい頃は自分の本当の名前はチョコラというのだと思っていた。だから、持ち物にもみんな、チョコラと書いてもらったのだ。
 それから、ポケットか十円玉を取り出して賽銭箱に入れた。チャリンと音がした。賽銭箱は空ではない。こんな小さな神社にもお参りにくる人がいるということだ。
「どうか雨を降らせてください。運動会が中止になりますように」
 そうつぶやいて、手をパンパンと二度鳴らして頭をさげた。


 
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