富岡製糸が世界遺産になった影響で最近やたらと養蚕が話題なんですが、わたしはそんなんよりもとっと前から趣味でお蚕を飼ってます。祖母が養蚕農家で、40年くらい前までお蚕を飼ってました。わたしはその頃幼児だったのですが、飼い方を習ったことがあって、大人になってから突然思い出して「そういえばお蚕飼いたいぞ、もう何十年も見ておらんな。よし、お蚕飼うぞ」みたいに思い立って始めました。
▲お蚕の種。養蚕用語は江戸時代以前の昔の言葉なので、卵なんて言い方しないで「たね」って言います。子種(こだね)の種ですね。
お蚕の種は、数年前までは群馬の蚕糸技術センターから取り寄せていたのですが、ちょっと前に蚕種の県外配布をやめてしまい、入手が難しくなりました(うえーん)。
それで今年はあるところから入手しました。研究用なので表向きはレポートを書いたりしなくちゃいけないんですよね。完全に趣味では駄目なんですが、育種(品種改良)とか、教育用とかで個人でも配布を受けられるはずなんです。ところがWEBから注文をかけるとき、目的に育種とかなくて、結局どうしていいのかよくわかんないので「種の保存」とかを選んで適当に注文。
その後も、レポートどうしようかって少し悩みながら、お金払ったりいろんなことしてるんですが、特別催促もされず。ううむ、どうすればいいんだろう、どうすれば(笑)たぶん、聞いたらレポート書いてって言われるに決まっているんですが、こう意味わかんないと聞きづらく、このまま黙ってたほうがいいのかなあ、なんて思ったりしてます(爆死)
そんなこんなでどこから注文したかは、わかる人にはわかるだろうけど、書くべきじゃないよね、うん。
最近話題なので、お蚕を飼ってみたいという人はたぶん沢山いると思います。わたしは変わった品種を飼いたくて苦労してますが、品種にこだわりがないなら、お金を払えば配布を受けられるところがいくつかあります。もし必要ならばコメント欄で聞いてくださればお答えできると思います。わたしが別のところでやってた「趣味の盆蚕」っていうブログにも、いくつか書いた記憶があるので、検索したほうが早いかもわかんないです。
今年は琉球多蚕繭と小石丸を 1蛾ずつ注文しました。カイコガというのがこの虫の正式和名ですが、ジャガイモに男爵やメイクイーンがあるように、お蚕にも沢山の品種があります。琉球多蚕繭とか、小石丸とかはお蚕の品種ですね。小石丸は皇居のご養蚕所で美智子様が飼っているのでニュースでもよく耳にする品種です。
それぞれを、1蛾つづと注文したら、2蛾から半分ずつ都合 1蛾にしてくれました。1蛾というのは、1頭のお蚕が産んだ卵のことで、品種によって数は違うんですが、だいたい200〜300個くらいですかね。全部育てると、餌も大変だし、飼育する場所もないので途中で数の調整をする予定です(生物処理班のヒキガエルの口に入れます、笑)。
突然レポートせよと催促されたら困るので、いつもより少しだけ研究モードでやろうと思ってます。琉球1・琉球2、小石丸1・小石丸2、という具合に四グループに分けて育てて、琉球の1同士・2同士・1と2/小石丸も1同士・2同士・1と2、と六種のペアを作って卵を産ませてみようかなあと思っています。近親交配で何世代維持できるかがテーマ? なんか想像すると管理が大変そうですが、まあ、やれるとこまでやってみよう。
▲孵化したばかりのお蚕。この写真ではわかりにくいけれど、最初は毛が生えているので、毛蚕(けご)と呼ばれています。小さくて蟻のようなので蟻蚕(ぎさん)とも呼びます。5月10日に掃き立てになるように注文したのですが、気温が高かったせいか 7日くらいから孵化が始まってしまいました。琉球多蚕より小石丸のほうが孵化が早かったです。
▲餌の桑(くわ)を与えたところ。あっという間に這ってきて食べ始めます。この小さなお蚕を、小さなはけで飼育場所に移すことを「掃き立て」といいます。孵化した日にすることが多いので、掃き立て=孵化=桑くれ始めと思っておいても差し支えないかと。
▲5月21日なので、約2週間後くらい。二眠明けといって二度目の脱皮が終わったところです。
▲今はこんなふうに育ててます。紙の箱に半紙を敷いて、その上にお蚕と餌を入れて、乾燥をふせぐためにビニール袋をかるくかぶせておきます。ずっとこのまま育てるのではなくて、成長して大きくなったら箱を大きくしたり、増やしたりします。
あと10日もすると人の指くらいのサイズまで育って、そりゃあまるまるとしてかわいい芋虫になります。そうしたら美しい繭を作るのでお楽しみに。繭からはちゃんと糸もとれますよ。
ところで、ここでひとつ豆知識。絹を作る生き物は、実は複数います。日本ではカイコガ科のカイコガ(学名:Bombyx mori )という虫の繭からとるのが一般的で、この記事に貼った写真もカイコガの幼虫です。餌は桑(くわ)という植物の葉で、それ以外は食べません。
ほかに、ヤママユガ科のヤママユ(=天蚕:てんさん、学名:Antheraea yamamai)や、サクサン(柞蚕、学名:Antherea pernyi )の繭からも絹がとれます。こちらはカイコガとはまったく別の生き物で、餌も違えば飼い方もまるで別です。
皇居のご養蚕所では、カイコガ以外にヤママユ(天蚕)も飼育しているのですが、ニュース記事をかく人がまるで虫に興味がないらしくて、多くの場合ごっちゃにして、あたかもヤママユが桑の葉を食べて育つかのようなことを書いている人がいます。皇室でどういうニュースリリースをするのかよくわからないんですが、カイコガとヤママユをごっちゃにするなど、ものがわかってないからこそ恥もなくできることです。わかってしまうと赤面するくらい恥ずかしいことなので、記者のみなさんは少し勉強してください。お願いします。
◎いちおう、うちにはヤママユの写真もあるのでURL貼っておきます。
http://www.chinjuh.mydns.jp/hakubutu/musi/zz000108.htm
ヤママユ(ヤママユガ)は、日本の野山にも普通に生息する昆虫です。成長すると大きな蛾になります。グスコーブドリの伝記で、栗の木に網をかけて育てる虫は、ヤママユか、サクサンのどっちかだと言われています。
カイコガは野性にはいません。成長して蛾になっても空を飛べないので野性では生きて行けないのです。
日本で絹の原料になる虫は、カイコガが主で、一部でヤママユも飼われています。昔はサクサンも飼育されてたことがあるそうですが、今はあまり聞きません。
外国へ行くと、もう何種類か絹の原料になる虫がいます。ほとんどはヤママユの仲間ですが、カレハガ科やギョウレツケムシ科の昆虫が利用されることもあるそうです。