天気が悪いせいか頭が痛くて、午前中ごろごろしていたら、ものすごいことを思い出した。
けっこう昔のこと。韓国人青年とご飯を食べながら話したことがある。ちなみに使用言語はエスペラント。
韓国人青年がテーブルの上に置いてあるものを指さして
「これはソイスーコ、わかる。こっちのは何?」
ソイスーコ sojsuko は直訳すると大豆の絞り汁のことだ。青年は醤油の意味で使ってた。それはわたしもわかる。問題は「こっちのは何?」だ。
わたしはそれがなんなのか知ってる。よーく知ってるけど、改めて聞かれるとなんと答えていいかわからなかった(しかも日本語じゃないし)。
「う、うーん。日本では”ソース”と呼んでる」
わたしがそう答えると、青年は何かにピンと来たらしく、
「”ソース”、聞いた事がある。これがソース!」
と、何かに感動して、軽く舞い上がっていた。
それでわたしは、あの塩分と甘みとやや酸味も含まれた、複雑で丸い味のする褐色の液体を「ソース」と呼んでテーブルに常備する習慣が、日本特有のものだってことに初めて気がついた(少なくとも韓国にはないってことだ)。
料理に沿えて出す液状またはペースト状の何かのことをソースというのは欧米各国共通のものじゃないかと思う。英語では sauce スペイン語では salsa など、多少の変化はあっても大体同じのような気がする。しかし、欧米のソースはトマトソースであったり、ホワイトソースであったり、ドミグラスソースであったり、様々な材料で、様々な味のものが存在するし、多くの場合は料理にあわせてその場で作って出すんじゃなかろうか。瓶詰めや缶詰めで売られているソースがあるとしても一種類ではなくて、材料も味も異なる様々なソースがあるはずだ。
ところが日本では、ただソースと言えば指しているのはたったひとつ。あの、濃い褐色で、塩辛くて甘くてやや酸味があって複雑な香りがして丸い味の、あのソースだけ。ウスター、中農、とんかつ、お好みなど多少のバリエーションはあっても、あくまで同じもののバリエーションでしかない。それを、あらゆる料理にかまわずかける。コロッケにもソース、カツレツにもソース、カレーライにもソース、焼きそばの味付けもソース、アジのフライにソース、イカリングにもソース、人によっては目玉焼きにもソース。なんでもかんでもソースだ。そして、これだけ生活に浸透しているにもかかわらず、誰もソースが何から作られてるか知らない。ソースは家で作るものではなく、店で買ってくるものなのだ。
これはものすごい事ではなかろうか。いいとか悪いとかではなくて、ものすごい。よその国にはないだろう珍しい食習慣だ。
もうひとつすごいことに気がついた。日本人は、ソースを「外国のもの」だと思ってる。ソースがあうのはコロッケやカツレツやカレーライスや、いわゆる洋食ばっかりじゃないか。
ここまで書くと「いや、ソースは外国のものであってる」というつっこみが入るだろう。それはわたしも知っている。日本のソースのもとは、どうやらウスターシャーソースという、イギリスのソースが元になっているらしい。一説によればウスターシャー州の主婦が残った食材を調味料と一緒に保存していたら、醗酵して美味しい液体になっていたというのが始まりだと、なんかで聞いた事がある。それをなんとかいう会社が商品化して世界中にひろまったと。
え、なんだ、世界中にあるんじゃない?! いやいや、ウスターソースそのものはあるかもしれないけれど、それを食卓に常備してなんにでもかけて食べるのは日本くらいじゃないのって話ですよ。少なくともスペインの飲食店にはそんなのなかった。フィンランドにもなかった気がする。他は行ったことないので知らん。調べてくるから誰か金をくれ(結局そこに行き着くのか)。
日本では、調理済みの食材に、食卓で醤油をかけて食べる習慣があったので、ウスターソースのようなものが自然に普及したんじゃないだろうか。これはやはり、日本特有の食習慣のような気がする。それを海外にもあると思っているところが、とてつもなく面白いことのような気がする。これは、ものすごいことじゃないだろうか。
え、すごくない? まあ頭痛でひっくりかえってる間にひねり出したことだからね。すごくなくてもしょうがないや。
すごくないついでに、もうひとつ思いついた。大豆はなんでソイビーン soybean なの?
醤油 soy の原料になるからソイビーンなのはわかるけど、それって醤油あってこその命名だから、日本から醤油が紹介されるまで欧米には大豆がなかったってことなの?!
えーでも、大豆の生産地ってアメリカとソ連……じゃなくてロシア(笑)、いや、こういう知識は中学の社会科で習ったことが最初に思い浮かぶので、国名もソ連なんだけど、アメリカとソ連で沢山作ってて、日本はアメリカから輸入してるんだけど、アメリカが不作の時はソ連の大豆価格が高騰する、なんでかっていうと日本がソ連から輸入するから、みたいなことを習った気がする。ちなみに今はブラジルで沢山作ってるのでソ連(ロシア!)は関係ないらしいですけどね。
とにかく大豆は輸入に頼りきってるはず。諸外国でそんなに作っているのに、なぜ名前が「醤油豆」なの。おかしいでしょ。
と思って、これまた調べてみたら、ヨーロッパに大豆が伝えられたのは江戸時代初期で、醤油の原料になる豆だと紹介されたのが最初なんだって!アメリカに伝わったのはその100年後くらい。
そんな新しいんじゃ、自国の食生活と関係なさそうだし、なんで沢山作ってるのかなあと思ったら、最初はプラスチックの原料にするためだったし、綿花が害虫にやられて不作だった時に綿実油のかわりにするために栽培が盛んになったらしいです(ソースは Wikipedia )。
沢山栽培してるからといって昔からあったとは限らないんですねえ。
そしてまたソースですよ、ソース。
ソースは Wikipedia とか書いて、ふと思った。なんで情報源のことをソースって言うんだ? あとプログラムのことをソースとかソースコードとか言うよねえ。どっちも調味料のソースのように、味付けや添え物的な意味はまったくないと思うんだけど。
そこでつづりを調べたら、調味料のソースは sauce で、語源は塩味を意味するラテン語 salsus から来ているそうだ。スペイン語のサルサ salsa なんかも同じ。
情報ソースやソースコードの時のソースは source で、意味は「水源」のことらしい。ああ、それで情報源=情報ソースだし、ソフトウェアを動かす根源になる暗号(コード)みたいなやつをソースコードとか言うわけね!
というわけで頭痛は治ったのでこのへんで。
日本最古のソースメーカーが作ったこだわりのソース敬七郎ウスターソース【調味料 日本最古】【… |