前回は、繭をあけて蛹を出すとこまでやったんでしたっけ。お蚕は、幼虫のうちだと、ある数日間だけオス・メスを見分けられるそうなのですが、わたしはそこまでの眼力がないので、いつもオスとメスの蛹を引き当てるまで繭をあけます。メスばっかり、オスばっかり引き当ててしまうことが多々あって「うわー、繭が無駄になるー」とか言いながらやってます。まあ、開けてしまった繭も、ずり出しという方法で糸にすることは可能なんですけどね。
なお、蛹の状態で、オスとメスを見分ける方法は、わたしがはてなブログってところでやって放置した別のブログを見てください。検索するとイラストなどで解説しているページもけっこうありますよ。
◎趣味の盆蚕:蛹のオス・メス
http://okaiko.hatenablog.com/entry/2013/07/30/093530
さて、今回はちょっと実験モードなので、羽化したお蚕が勝手に交尾をはじめないように、こんなしきりのついた箱に、蛹を一個ずつ入れて蓋をしておきました。蛹の下には厚紙を蛇腹に折ったものを入れてあります。蛹は生きていて、よく動き回るので、蛇腹の紙があると転げるのを防げます。また、蛾になる時の足がかりにもなるかもしれません。
なお交尾をコントロールする必要のない場合は、こんな仕切りもいらなくて、オスとメスの蛹を紙の箱にでも入れておけばある日勝手に蛾になって交尾してると思います。
羽化しました。繭が完成してから羽化するまで、1週間から10日くらい。これは琉球多蚕繭という品種です。お蚕は品種により、幼虫の模様が違っていたり、繭の色や形が違ったりしますが、成虫になっちゃうと、どれも同じに見えます。
蛾になってからもオスとメスの見分けはつきます。一般的にメスのほうが大きめで腹が太いです。でっぷりした腹の中には卵が沢山つまっています。それと、メスは時おり尻を高くあげて、フェロモン腺を出してオスを呼びます。下の写真は今回のじゃなく、前に撮影したものですが、こんなふうに尻からフェロモン腺を出してるのはメスです(常に出してるわけではありません)。
さて、お楽しみの交尾です。ペットボトルを切って作った個室を沢山用意しておきます。これは交尾が終わってから使うものです(今回は勝手に交尾させないように交尾前からかぶせてありますが)。
交尾の様子を動画にしてみました。お蚕の交尾は何度やっても面白いです。オスはメスを求めて羽を振動させながら歩き回ります。そして、尻を使ってメスの尻をさぐりあてて、しっかり結びつくと、振動しつづけていた羽がピタッと止まり、次にバタバタッ、バタバタッ、バタバタッ……という断続的な動きに変わります。しっかり結びつくと、何時間でもずーっとくっついたままです。翌日までほっといたらまだくっついてたことがあります。それではメスが弱ってしまい、産卵する力がなくなるので、4時間後くらいに人の手で引き離してやります。これを、割愛(かつあい)と言います。もとは仏教用語で、手放し難い大事なものを手放すことです。
◎趣味の盆蚕:羽化・交尾・割愛
http://okaiko.hatenablog.com/entry/2013/07/01/155137
割愛したらメスは卵を産み始めます。すぐ産み始めることもあれば、数時間じーっとしてることもあります。産み始めると、歩き出すので、一カ所にまとめて産ませるために、最初に用意したペットボトルを切ったものをかぶせておきます。こういうのを蛾輪(がりん)とか言って、蚕種屋さんも似たようなものを使ってると思います(もちろんペットボトル製なんかじゃない専用の道具です)。
上の写真は卵を産んでいる途中のお蚕です。産卵は時々休みながら1日くらい続きます。この卵が有精卵ならば、いずれ小さなお蚕が生まれてくることになります。有精卵と無精卵は、生まれてから数日すると色が変わるので見分けられます。それはまた後日、写真を貼ろうと思います。
ところで、今回飼っている琉球多蚕繭と小石丸という品種は、在来品種とか固定品種とか呼ばれるものです。何百年・何千年という長い間に性質の良いものだけを選んで育てた結果いつしか定着した品種です。こういう固定品種は、同じ品種同士で交尾させると、その子どもは親の性質を受け継ぎます。
品種にはもうひとつ、普通品種とか一代交配品種とか言われるものもあります。これは、固定品種Aと別の固定品種Bを交配させて生まれた一代目のことを言います。最近よく耳にするF1というのは「一代目」という意味です。
なんでそういう雑種を作るかっていうと、そうすることで親よりも良い性質になる場合があって、利用価値が上がるんですね。たとえばですけど、日本の在来品種は、ほとんどが一化性といって、1年に1度しか発生しません。卵は冬を経験しないと孵化しない仕組みになっています。
それで、中国の品種などと掛け合わせて、ニ化性や多化性といった、年に何度も発生する性質をもたせたりします。もちろん、糸の太さや色、繭の大きさなんかも、交配によって良いものが生まれる可能性があります。
日本で産業的に普及している品種は、だいたい一代交配品種であることが多くて、同じ品種同士をかけあわせても、その子どもは親と同じ品種にはならないんです。だからこそ、お蚕を飼うときは、自分がなんという品種を飼ってるのか知る必要があるし、人に蚕種を配布する人は、それがどういう性質のものなのか説明できて当然だと思うんですけど、最近はあまり気にせず人に配っちゃう団体も多くて、わたしは正直言うとビミョーな気分になります。
まあ、それはともかく、わたしが今飼育してるのは、在来品種なので、その子供も同じ品種になるはずですが、同じ親の子ばかりかけあわせていると近親交配で遺伝的に劣化する可能性があるので、何世代維持できるものなのか観察してみようと思っています(というのは口実で、実はいろんな品種を飼ってみたいだけなんですけどねw)。
ただ、最初に書いたとおり、日本の在来品種は一化性なんです。ほっとくと来年の春まで孵化(ふか、卵からかえること)しないので、何年観察し続ければいいのか、自分でもよくわかりません。冷蔵庫で冬を体験させれば冬を待たずに孵化するかもしれないので、それも実験してみたいと思います。
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