わたしは旅行先で博物館によく立ち寄るんですが、養蚕や機織りの道具が面白いのでけっこう熱心に見てます。たまに館の人に話しかけられるので、趣味でお蚕を飼ってますと答えると「じゃあ、機織りをなさるんですか?!」みたいに言われます。これが面白いくらいに、ほぼ全員がそういう反応をするから不思議。
わたしは手作業が好きなので、糸紡ぎや機織りにも興味があります、というか子供の頃からそうとうあこがれてました。だがしかーし。それ以前にただの虫好き、というか芋虫好きなんです、えへへ。
中でもお蚕は、祖母が養蚕をやってるのを幼児の頃に見てたので「慈しみ育てなければいけない可愛いもの」として擦り込まれています。祖母は仕事で育ててたはずなので、作った繭はどこかに出荷してたはずですが、わたしは幼児だったのでそこらへんの事情はよくわかりません。
というか、ここ重要ですね。そう、「出荷してた」んです。養蚕は地方によってやりかたが違うそうです。卵の状態で蚕種屋さんから購入して、稚蚕から育て、繭にして、糸を紡いで布にするところまで、全部自分でする地方もあったらしいです(聞きかじりなので話があいまいですが)。
群馬の養蚕は分業が進んでいました。蚕種(卵)を孵化させて三齢くらいまで育てるのは別の人だし、繭を糸にするのもまた別の人。糸を染めたり機織りをしたりするのもさらに別の人。祖母がやってたのは、三齢くらいの蚕を仕入れてきて、繭になるまで育てる部分だけでした。
そのせいか、わたしには「繭をどう利用するか」という部分がすっこぬけてます。いや、知識としては持ち合わせているのですが、実技として身についてないっていうか、具体的なイメージがわかないのですよねえ。こんだけ、お蚕お蚕って毎年騒いでるわりに、着物も洋服も木綿派だし(笑)
そのくせ、糸紡ぎをやってみたい、機織りをしてみたい! というあこがれは人一倍強いのですよ?
っていうのを説明するのが面倒くさいので「機織りをなさるんですか?」という問いには「勉強中です」と答えておくことにしてます。おー、すげー、こんな長文がたった五文字に集約されたー(笑)
というわけで勉強中ですよ。まずは糸にしなきゃ話にならんですよね。糸紡ぎの様子も紹介したいんですが、紡ぐのも自分、撮影するのも自分、腕は2本しかない、どうしろと??? みたいな状態です(笑)それでも一昨年ちょっと頑張ってこんなページ作ったのでよろしければどうぞ。
◎はてなブログ:趣味の盆蚕:糸を紡ぐ
http://okaiko.hatenablog.com/entries/2013/07/05
この写真の黄色い方の糸は、はてなブログの記事にした、まさにその糸です。繭を煮て引いた糸に、ドロップ式のスピンドル(この記事の中ほどに貼った写真)でよりをかけて作りました。案外ふつうの糸みたいになるでしょう? 黄色いのは、もとの繭の色です。黄色い糸をはく、ぐんま黄金という品種の繭から紡ぎました。茹でてセリシンを落とすとだいぶ色が薄くなります(光にも弱いので、日に当てると褪せると思います)。
茶色いのは同じように引いたのを、チャルカーというインドの紡ぎ車でギュイーンとよりをかけて、シソの葉の絞り汁で染めました。これもいろいろ実験中の品です。わたしは梅干しも自分で漬けるんですが、塩でもんだシソの葉を色付け用に一緒に漬けます。その時、最初の絞り汁は「あくが強い」とか言って捨てるんですけど、その捨てるとこ使いました。どんな色になるかと思ったら茶色くなってしまった(笑)アクじゃないところを使えばもうちょっと赤くなったかもしれません。
黄色い方の糸をレース用のかぎ針で花の形に編んでみました。あまり使い道を考えずに糸にするので「縫い糸には太過ぎて、かぎ針用には細過ぎる」みたいな、中途半端な太さの糸で、わりと持て余し気味です(笑)
お蚕の繭から糸をとる方法は何種類かあるんですが、下の写真は「ずり出し」という方法で糸にする様子です。紬(つむぎ)という布はこの方法で作った糸で織るらしいんですが、これまた聞きかじりなんで実際どうなのかは知りません。
左側の箱の蓋に入ってるふわっとしたものは、繭をぐだぐだに茹でてほぐしたのを乾かしたものです(いわゆる真綿というのがこれ)。この真綿を、ちょっぴり摘んで引っ張ると、それだけで糸になります。ただ、まあ、引っ張るだけだとフワフワしちゃうので、正確に言うとかるーく、疑似的な「より」をかけるのですが、引っ張った糸を右のてのひらと自分の太ももで転がします(こんな説明でわかるかなあ)。ひっぱって転がして、右の箱に入れて行きます。
その時、手が乾いているとうまく転がらないので、てのひらをペロッとなめて湿らせて転がしたりします。「えっ、なめるの?!」と思うんですが、なめるのが正しいそうです。水を使うと、水の成分によって糸が黒くなったりすると言われてて、正しいずり出しのプロはマジ真剣になめるそうです。糸が途中で切れた時なんかも、なめて転がすとくっつきます。まあ、糸が変色するとかは、井戸水で鉄分が濃い地域があるからだと思うんですけど、伝統的な作法は「なめる」です。
箱にたまった「ずり出し」の糸。わたしは趣味なので適当に空き箱を使ってますが、この作業をするための専用の道具もあります。糸を入れるのは木で作られた桶で「こぼけ」と呼ばれてることが多いです。
これが「ずり出し」という方法で作った糸です。ほとんどよりがかかってないのが分かるでしょうか。繊維はよりをかければ強くなり、切れなくなります。しかし、この方法だとほとんどよりがかからないので、布にする時は緯糸(よこいと)に使うのが普通だと思います。ただ、ずり出しの名人がやると、経糸(たていと)に出来るくらい丈夫なものも作れると聞いたことがあります。そういった名人はすでにお年をめしているので、ほっとくと失われる(あるいはもう失われてる)技術のひとつだと思います。
そうそう、さらっと「繭をぐだぐだに煮てほぐしたものを真綿と言う」みたいなこと書いてしまいましたが、真綿にするのにも実は技術がいるんです。煮加減も重要だし、丸い繭が平たくなるように広げて枠にはめたりする作業がけっこう難しいんです。
加賀指ぬき カイロ 保温 冷え取り kkm 真綿 約7.5g(まわた)(1枚約1.5g×5枚入) 金亀 手… |
真綿はこんな状態で販売されてるんですが、これ丸い繭を茹でて広げて重ねたものなんです。平らなもの以外に、袋状に成型する方法とかもあります。資料映像を見たことがありますが、ちょっと口では説明しにくい名人芸なんですよ。それもほっとくと消えてしまう技術のような気がします。「富岡製糸が世界遺産になったとかって舞い上がってる場合かっつーの、そんなもんに選ばれないとわからないんじゃ遅いんだよっ」と養蚕関係のニュース記事を見るたびに、なぜか腹が立つわたくしなのでした。
あ、ちなみに、わたしにはそのような名人芸はありません。何度も言いますが、わたしが祖母に習ったのは飼って繭をつくるとこまで。紡いだり織ったりするのは祖母の仕事じゃなかったので、実際には見た事もない未知の技術です。売り物ではないので妥協して、グダグダに煮たのを絞って乾かし、乾いたのを手でほぐしてフワフワにしてから使ってます。
下の写真は、やっぱりずり出しなのですが、紬車でちゃんとよりをかけたものです。あまり上手にほぐせなかった真綿を使って、大胆にコブだらけの糸にしてみました。
で、これらの糸をどうすればいいのか、それがまた大問題。だーかーらー、わたしはただの芋虫好きなんですったら(笑)
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