なんだろうこの感じは。物語の中で語られる出来事のほとんどは、たわいもないつまらないことばかりだと思う。介護人という仕事をしている主人公が、その仕事をやめる決意をして自分の過去をふりかえる。ヘールシャムと呼ばれる学園の生活のこと、恋人同士のこと、学園を出てからの生活のこと… そのどれも淡々と語られているが、どこかがおかしい。
その違和感の理由はさほど読み進まなくても明かされるのだが、その衝撃的な内容に反して描写は淡々としている。教師たちから事実を告げられても生徒たちは静かに受け入れ、取り乱すこともない。ヘールシャムにいる生徒たちは、全員が将来「提供者」という立場になり、学園を出てからは、提供者になった仲間たちを介護するための仕事につくと決められていた。
ただひとつ、ずっと謎のまま残ることがある。学園では何かにつけ芸術活動が奨励されている。どんなに素養のない者にも絵を描くことや、詩を作ることが強く勧められた。そして良い作品は、定期的に学園を訪れる「マダム」という女性が持って行くのだ。目的は知らされていない。「展示館」に展示するのだという噂だけが生徒たちに広まっている。
結局それだけが謎として残り、最後の最後まで主人公たちの希望として残る。展示館やマダムについて、先生たちが謎の態度をとるのはなぜなのか。学園の子供たちは幼さの残る中学生くらい。その時代の絵や詩がいくら上手いからといって特別芸術的なものとは言えない。にもかかわらずマダムが持って行くのはなぜなのか。その事に関する先生たちの謎の態度。そこにはならかの突破口があるはず… そう信じて、主人公が起こした行動で、すべての秘密があきらかになる。結末は非常に重く、それでいて静かにおとずれる。
最初に書いたとおり、語られる出来事は地味でつまらないことばかりだと思う。しかしそれを退屈とは感じない。ただそれを映像作品にするとしたら別である。2010年に映画になったそうだが、一体どんな映画なんだろう?
映画ならば2時間集中して見るものだろうからたえうるのかもしれないけれど、これを週一のテレビドラマにするなんて(しかも日本人で?)、一体どんなドラマになるのか今から気になって仕方がない。
ただ、まあなんていうか、SFだと目新しくもない題材のような気がする。それを「提供者」目線で描いたこと、単に悲劇としてでなく、学園生活を通して人間を描写したところがすごいんだろうなと思う。
それに、実際にこういうことがあったら物語で語られるほど世の中がこういうふうにはならないとも思った。提供者の存在が世間に秘密にされていれば別だがそうでもなさそうだったので。自分の窮地に理性をかなぐり捨てる人は多いだろうが、全員がそうなるほど人間は単純じゃないような気がする。
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