#本 『ペテロの葬列』を読んだ

1280px-Le_Reniement_de_saint_Pierre_by_Gerrit_van_Honthorst のコピーs のコピーs 2014年のテレビドラマの原作本です。あのドラマは途中まで強烈に面白かったのですが、結末が意味不明というか「結局なんだったんだろう、この騒ぎは??」という感じでした。それで原作本を図書館で借りて来たというわけ。なんで今ごろ?ドラマ見てる最中に予約したのがやっと手元に来たからです。おお、一年半もかかったよ。ちなみにアイキャッチ画像はホントホルストの『ペテロの否認』ウィキペディアより(パブリックドメイン)


 予約してからかれこれ一年半くらいたってるわけです。時間がたちすぎて、実は何がどう不完全燃焼してたのか自分でもよく覚えていません、困りました。ドラマのラストがどんなだったか、あらすじを軽く(あまり真剣にはやってない)ググってみたのですが、衝撃の結末…などと書いている人の「衝撃」は、杉村家の問題ばかり。ああ、残念、そこは覚えてるし、個人的にはどうでもいい部分だった。あの好人物の「お義父さん」がこの先(があるとして)出てこなくなりそうなのが残念だとは思うけど。

 まあ、読めば思い出すかもしれないので読み始めました。以下は人物のメモだったり、あらすじだったり、感想だったり。面白く書こうとしてないし、ネタバレに留意していないので読みたくない人はここでやめてください。楽天ブックスへのリンクを入れてから、その下に書きます。

ペテロの葬列 [ 宮部みゆき ]

ペテロの葬列 [ 宮部みゆき ]
価格:1,944円(税込、送料込)

 これはハードカバー版ですね。これを図書館で借りてきました。今でも大人気で予約してから手元に来るまで1年半かかりました(買えよわたし)。
文庫版↓
ペテロの葬列 上 [ 宮部みゆき ]
ペテロの葬列 下 [ 宮部みゆき ]

 というわけで読んだんですけどね。ここだっていう部分が三点ね。ほんとにそこだったかはドラマを見ないと確認できないけどたぶんそこ。そこってことにしておく。まともな書評とか期待しないでね(笑)

 よくわかんなかった部分その一。バスジャックの犯人(佐藤老人)が、「善良な市民であり、悪人。一部の人にとっては重要な人物」として、三人の実名をあげて、連れて来てほしいと要求するところ。なぜその三人じゃなきゃいけなかったのか。

 その人たちは、とある詐欺事件の被害者であり、加害者でもあった。それは、架空投資詐欺とマルチ商法を足したみたいな手口なんだけど、三人はその中間会員だった。三人とも騙されて会員になり、同じように知人を会員に誘い込んでしまった人たち。

 佐藤老人の目的は、この人たちの存在を世間に知らしめることであって、実際に連れて来させるかどうかはどうでもいいことだった。組織の幹部は逮捕されたが、そういった中間会員も加害者なのだと訴えたい。ここまではいい。

 しかし、そういう人たちは他にも大勢いるのに、なぜこの三人なのか? 三人は特別なのか? 一般会員みたいな顔をして、何か裏があるってことなのか……みたいなことを期待して読んだんだけど、

 原作も「誰でもよかったのだろう」で終わってた! なんてこった、ドラマは原作通りだったんだね!!

 でも、さすがに原作は情報量が多いので、単純に「誰でもよかった」以上の手応えがあったよ。主人公の杉村(ただの編集者なのに探偵まがいの活躍をして、しょっちゅう事件にまきこまれる男)は三人がどういう人物だったか調べて歩く。彼らはマルチ商法にさえ騙されなければ、真面目でいい人だったかもしれない普通の人たちばかり。そういう普通の人たちが、他人の生活をズタボロにしてしまう。

 この恐ろしさは名簿からほとんど無作為に選ばれただけの三人にライトを当てるからこそ伝わるものかもしれない。入り口は広くどこにでも開いていて、誰もが足を突っ込んじゃうかもしれないのに、その出口は確実に地獄のズンドコなのよ。しかし、誘い込んだ者は「自分も被害者」と思い込んでる。そう、思い込んでるの。三人のうちの一人は、被害者の会が立ち上がると「何もわかってない末端会員を自分が助けなきゃ」と思ったと書いてある。しかし、会合に参加すると自分が騙した被害者たちから「お前のせいだ」と叩かれて、やっと自分が加害者だってことに気づく。

 ドラマでよくわかんなかった部分その二。犯人の動機。佐藤老人は、かつてトレーナーという役割で、マルチ商法の幹部を教育しており、彼自身が加害者と言ってもいいような立場。なぜそれが他人の罪を暴こうとするのか?

 これは「臨死体験をして本来の自分を取り戻したから」って書いてあったYO! オーイエー、三途の川キター!!しかも死にかけた理由は釣りの途中で足を滑らせたって、それだけだったわ。

 そういえばテレビドラマでも、佐藤老人の不幸な少年時代を説明してたし、死んだ両親が「償いをするまでこっちに来るなと言った」って話があったような気はする。実際にそんな体験をしたかどうかは別として、人間なんて年を取ると過去の自分をふりかえって、突然改心したりするものなのかも。でも、マジそれだけかーという脱力感はあるよねえ。なんかもっと衝撃的な出来事を期待しちゃってた。

 さて、イマイチ意味わかんなかった部分その三。坂本君のバスジャック。佐藤老人が起こしたバスジャックで人質だった坂本君の動機。大学中退でフラフラしてる坂本君。彼が最後に別のバスジャック事件を起こすじゃない。「御厨を呼んでこい」みたいなこと言って。あれもよくわかんないのよね。

 御厨っていうのは複数のマルチ商法会社を裏であやつってた経営コンサルタントで、最初は佐藤老人と同一人物だと思われてる。それが佐藤の幼なじみのおばあちゃんの話で別人だとわかり、しかも、もうこの世にいないらしいってことがわかってるの。ところが、坂本くんはわざわざバスジャックを起こして「御厨を連れてこい!」っていうわけよ。

 坂本君はマルチ商法に騙されていて、自分も詐欺の片棒をかついじゃったって悩んでる。自分も裁かれるべきだ、自分を陥れた闇を世間に晒さなければならない、膿を出し切らなきゃいけない、と思い詰めてた。それはいい、わかった。しかし、坂本君を騙してた会社は、御厨&佐藤がかかわってた会社とは、たぶん別のものだし、御厨をひっぱり出してどうするのか……

 理由のひとつは、詐欺の手口が継承されるものだってこと、ある詐欺会社が摘発されても、手口は継承されて別の詐欺を産んでしまう。坂本君にとっては御厨と佐藤が、自分をだました詐欺集団の象徴みたいになってたのかもしれないよね。

 佐藤老人と御厨の関係は、老婦人が勝手に事情をしゃべってるだけで、その場はみんな納得して引き下がるの。それがいけなかったとも書いてあった。あの時、御厨がどうなったのか確かめておいたら坂本君の事件は起こらなかったんじゃないかと。どうもそこらへんは、原作読んでもスッキリしない。しかし、坂本君がバスジャックして騒いだおかげで、杉村は御厨の死体を発見して、佐藤のもうひとつの罪「殺人」を暴くことになる。

 その他、なんで狙ったように迫田おばあちゃん(自分の母親を環境のいい福祉施設に入れるために貯めてたお金を日商ナントカにだまし取られてぼけちゃった人)がバスに乗ってたのかなど、全部「偶然」で話が済んでた(笑)

 というわけで、ドラマのよくわかんない部分は原作通りでした。そもそも宮部みゆきの小説は、推理が面白いんじゃなく、人間模様で読ませるタイプなんですよね。事件の顛末は「なんでこんなつまらないことで…」と思うよな事でも、それにかかわる人間描写が面白い。そういう意味では杉村家のスキャンダルもどうでもいいってわけじゃない。あんなことしといてきれい去って行く奥さんより、それを暴いた井出とか、井出をたしなめた森閣下とかが、いい味出してると思う。

登場人物
・杉村:主人公。今多コンツェルンというでっかい会社の社内報の編集者。
・菜穂子:杉村の奥さん。今多コンツェルンの会長の娘。
・園田(編集長):社内報の編集長。バスジャックの人質。
・坂本くん:大学を中退してフラフラしてる若者。バスジャックの人質。
・前野さん:パティシエ志望のフリーター。坂本君の彼女。バスジャックの人質。
・迫田おばあちゃん:ややボケてしまっているおばあちゃん。バスジャックの人質。
・田中さん:町工場の社長。バスジャックの人質。
・柴野さん:ジャックされたバスの運転手。人質。
・佐藤一郎:バスジャックの犯人。偽名。

・北見(探偵):前のシリーズで杉村と知り合いだったらしい。故人。
・足立:北見の依頼者。

・今多嘉親:今多コンツェルン会長。杉村の義父。
・森閣下:コンツェルンの元重役。
・井出:森の部下。森閣下退職後は社内報の編集部勤務。
・真野:元エステティシャン。奈穂子の紹介で社内報編集部勤務に。
・橋本:コンツェルン広報部勤務でトラブルシューター。

 タイトルの「ペテロ」はイエス・キリストの弟子で、最後の晩餐のとき「お前は夜明けまでに三度わたしを知らないというだろう」とか言われた人。その後イエスが連行されて、ペテロも追われる身になるんだけど、つかまりそうになる度に「イエスなんか知らない」と言って、三度目に一番鶏が鳴くっていう、あの話の人。

 新約聖書の外典(聖書に採用されてない聖典)によると、ペテロはその後、ローマで伝道を続けるんだけど、皇帝ネロの弾圧でローマから逃げ出そうとする。その途中で昇天したはずのイエスと出会い「主よ、いずこへ?」とたずねると「お前がわたしの民を見捨てるなら、もう一度十字架にかかるためローマへ行く」というので、過ちに気づく。ペテロはローマにもどり、ネロにつかまって処刑される。

 裏切りと悔い改め、それから贖罪の象徴。

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珍獣ららむ〜 の紹介

特技はおりがみとお蚕の飼育と世の中の役にたたないこと全般です。養蚕が普通の仕事だったらニートでヒキコモリの体質から脱出できそうな悪寒がします。DQ10はほぼ引退しました…だってストーリーが完全にソロゲーなんだもの。/ちなみにわたしが珍獣を名乗っているのは1999年からで、イモトよりも古いです。ワンピースは知らん。イモトですねって聞かれるとあっちがマネだと答えたくなる。 twitter などでは chinjuh です。

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