三郷市内に沢山残っている「八十八石」は新四国四箇領八十八ヶ所めぐりの道案内です。四箇領は順路が都内も通っていますから、八十八石は都内にもあります。残念ながら路辺からは撤去されているものが多く、ほとんどはお寺の門前などに保存されています。今までいつ作られたのかわからず、昭和初期じゃないのくらいに思っていたのですが、明治時代に作られたことが判明しました。
◎三郷市の謎の石杭(八十八石)
http://www.chinjuh.mydns.jp/wp/20161003p5623
上記記事の続きです。
都内の八十八石はほとんどがお寺の門前などに移動されてしまっているので存在には気付いたんですが、あまり乗り気になれず、ずっとほったらかしていました。でも、東金町の大通り沿いにあるのが路辺に残っている例で(といっても金蓮院の参道入り口にあたるんだと思うのですが)、しかも改めて確認したら造立年が刻まれていたので、せっかくなのでまとめといたほうがいいかと思い「八十八石・都内版」も作ってみました。たまたま参拝したお寺でみつけたものなので、探すともっとあると思います。
東金町・観蔵寺(第32番)
これは三郷市内の例をまとめた記事にも書いたやつですね。都内なのでこっちにも貼っておきます。
▲東金町・観蔵寺(三十二番)の入り口にありました。隣にある黒い石柱も新四国四箇領のです。
この石は写真左側の面に三十三番とあり数字の上に左を向いた指のマークがあるみたいです。そして右面には三十二番とあって、右を向いた指のマークがついているようです。おそらく、ここを右折で三十二番、まっすぐ行くと三十三番、というような道案内だったと思われます。
路辺:金蓮院南、旧水戸街道への入り口(第31番大円寺への案内)
これが問題の、都内なのに路辺にある例です。路辺…といいても、おそらく昔は金蓮院の境内地がもっと広くて、ここが参道の入り口だったんじゃないかと思うのですよね。 ▲左に見えてるのが都道307号。右の細い道が旧水戸街道。現在の水戸街道(国道6号)はこのすぐ南にあります。
▲近づくと、正面に八十八などの案内があって、右脇面に「金蓮院」とあります。金蓮院は四箇領の第31番です。
▲これは左脇面です。こんな写真じゃ読めないと思うんですが、現地でためつすがめつすると「明治三十八年九月」って刻まれてます。八十八石ではじめて造立年を発見。この白い御影石?の案内は明治のだったんだ!
▲これが正面です。石のままだと読みにくいと思うので下に図解。
▲正面に書いてあるのは「八十八/三十番/二十一■/へ」です。30番は金町の大円寺です。金蓮院は31番。■は不明瞭で読めない文字。
▲石碑の案内は、あくまで三十番(大円寺)への道だと思うんですが、人さし指がまっすぐ金蓮院への道の指さしているので、道路工事で撤去したあとに、向きをかえて設置しなおしたのかなあと思います。
ところで、表面には「二十一」という数字もあります。わたしは最初、深く考えずにこの近く(金町地区)に21番もあるのかなと思っていました(札所は番号順に並んでるとは限らないので)。
でも、調べてみると、四箇領の21番は新小岩なんですよね。全然まったく近くないのでこんなところに案内はありえないです。
そこで二十一の下に何が書いてあるのかと思って、写真のコントラストを強くしてみたわけです。↓
▲文字のところだけ切り抜いてコントラストや露光をいじったもの。
こうしてみると、二十一の下に小さく「ヶ」が見えてきました。ヶの下には見た事もないような文字があります。図解するとこんなですね。
▲赤いところが画像処理で見えてきた部分。これ、もしかして「二十一ヶ所」って書いてあるんじゃないのかな。
こんな書体の「所」はよそでは見た事ないんですが、ネットで検索すると、所にはさまざまな異体字があって、看板なんかに使われてるみたいなんですよね。
石碑のと同じ形のものは見つかりませんでしたが、たぶん所の異体字なんだと思います。つまり、この石碑は四箇領の30番(金町・大円寺)への案内であると同時に、何かはわからないけど二十一ヶ所(これも弘法大師霊場です)への道案内なんです。
このへんで二十一ヶ所だと、水元水郷二十一ヶ所 と 三郷市の新田組 が近いんですが、この二つは石碑の建立よりあとに出来た霊場なので違うと思います。
ほかに、瓦大師(黒大師) というのが二十一ヶ所めぐりで、これは造立年がはっきりしないんですが、地元で札所の研究をされてる方が明治35年くらいじゃないかって前に教えてくださったので、その順路への案内かもしれません。
▲バルーンは瓦大師二十一ヶ所の札所です。赤い矢印で示したのが、石碑、31番金蓮院、30番大円寺です。
大円寺の方向には瓦大師の2番があるので(あんまり近くはないんですけどね)、そこから巡拝しなさいという案内なんですかねえ。なんせ「二十一ヶ所」としか刻まれてないので、はっきりとはわかりません。
なんせ明治の末期は霊場巡りを作るのが流行ったらしくて、もしかすると今では誰も覚えてないような霊場巡りがあったかもしれないんですよね。ブームの頃に作ってはみたものの、特に目立った活動もせず廃れたりすると、痕跡は残らないと思うので。
まあ、ここで注目しているのは四箇領の案内である白い御影石の「八十八石」なので、それが明治38年ごろに作られたと分かったのは大収穫でした。
【追記】2022.05.25. 30番大円寺の案内なのに、31番金蓮院を指さしている件ですが、30番が金町5丁目の大円寺だという情報自体が誤りだと、札所の研究をされている方から教えていただきました(いつもありがとうございます)。金町5丁目説は『江戸・東京札所事典』という本がソースだったのですが、この本はどうも情報があやしく、同名の寺をとりちがえるミスを多数犯しています。今回もそのパターンでした。 四箇領そのものは江戸時代に作られた霊場巡りですが、八十八石は明治35年に整備された道標です。道標が作られた当時、30番の大円寺はすでになく、31番の金蓮院に合寺されていたとのことです。つまり道標は作られた当時と同じ向きで立っているということですね。その事は金蓮院境内に標札と標石が残っているのでわかるとのことです。 また「二十一ヶ所」は、金蓮院境内に作られた石碑による霊場巡りのことだそうで、門前に13基ほど石碑が残っているようです。これは後日確認に行ってこようと思います。確認することメモ>「石碑による二十一ヶ所」「大円寺の標札と標石」
足立区神明・南蔵院(第6番)
▲神明・南蔵院の八十八石は寺号を刻んだ大きな石碑の後ろにありました。これは八十八ではなくて、札所番号が刻まれてるタイプのものですね。
▲片面に六番へ、隣りの面に七番へと刻んであって、文字の上に方向を指さしている絵が刻まれています。
▲ちなみに門前の石碑郡のうち、この写真の左端のやつも四箇領の案内です。向かって左面に天保十二辛丑歳十二月とありました。右面には「是より七番江九丁」と道案内も刻まれています。
柴又・良観寺(第29番)
黒い方は天保年間に作られたもので「第二十九番土州国分寺写」とあるのでもとから良観寺の門前にあったものだと思います(良観寺自体が金町浄水場ができた関係で移動しているらしいですけど)。白い方が当ブログで八十八石と呼んでいるものの仲間で、片面に「三十番へ」隣りの面に「二十八番へ」とあるので、もとはお寺近くの路辺にあったかもしれないですね(その道はたぶん金町浄水場になっている)。
奥戸・宝蔵院(第24番)
▲白い方には八十八と刻まれている。三郷市の例を見るとこういうのは霊場の門前ではなくて順路の途中に設置されているので、これもかつては路辺にあったかもしれないです。
黒っぽい石碑は、表面に「新四国八拾八ヶ所」としか刻まれていないんですが、向かって右面に「西新井組第廿四番…」と刻まれているので四箇領のだとわかります。「西新井組中川通」というのは四箇領八十八ヶ所の別名です。
霊場巡りの痕跡に目をつけて探し始めた頃は「組」というのがなんだかよくわからなくて、霊場を開いた講のこと(人のグループ)だろうかと思ったりしたんですが、そうではなくて、同じシリーズの霊場のセットみたいなニュアンスで「組」と言ってるようです(説明が難しい。わたし語彙力が足りなすぎ)。
青戸・法問寺
このお寺は四箇領の札所じゃないんです。15番の青戸・観音寺と、16番の青戸・宝泉寺が少し離れていて、その中間くらいにあります。おそらくもとは路辺にあったんでしょうが、道路の工事でどかされるさいに、近くにあったこのお寺の門前に移されたんじゃないかと思います。
これで全部だっけ? とひとまず更新したんですが、写真を見直したらやっぱりまだありました。下に3件追加します。
青戸・宝泉寺(第16番)
▲宝泉寺には第十六番と刻まれたのがあります(写真左側)。となりにあるのも霊場巡りの案内ですけど、これも四箇領のかなあ。番号が入ってないのでわからないですけど。
奥戸一丁目、中川土手近く。路辺
これはお寺ではなく、馬頭観音と一緒に路辺にあります。都内でこういうのは珍しいです。17番の立石・南蔵院から20番の東新小岩・上品寺に行くためか、上品寺から18番の奥戸・妙厳寺に行くための道標でしょうか。
東新小岩・上品寺(第20番)
▲上品寺門前にあります。片面に第二十番、隣りの面に第二十二番と刻まれてます。
四箇領の札所はすべてまわってみたわけじゃないので、探すともっとあるかもしれません。
青いバルーン:四箇領の札所になっているお寺
黄色いバルーン:三郷市内の八十八石
紫色のバルーン:東京都内の八十八石
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