新・珍獣様のいろいろ がぼちゃんねる

No.563の記事

日本みじかい昔話「鬼と若者」

音声ファイルはこちら
http://www.chinjuh.mydns.jp/ohanasi/365j/pc0010.mp3
(ポッドキャスト配信にも対応してます。iTunes をお持ちの方は Music Store にて「日本みじかい昔話」を検索してみてください)

 今日のは種子島の昔話で、端午の節句にショウブやヨモギを軒先につるすのはなぜか、というお話。

 端午の節句は中国から来た行事で、日本には奈良時代に伝わったそうです。もとは季節のかわり目に邪気をはらって健康を祈る行事でしたが、鎌倉時代から江戸時代につづく武家社会の中で、ショウブが尚武(武道を重んじること)や勝負に通じることから、男の子の武運を祈る行事に変わりました。こいのぼりを飾るようになったのも江戸時代からだそうです。


鬼と若者

 むかし、若い猟師が狩りに出たおりに、鬼が出てきて猟師を追いかけてきました。猟師が慌ててヨモギの原っぱに逃げ込むと、鬼はそれを見て「火じゃ、火がぼうぼう燃えておるぞ」といって近づいて来ませんでした。ヨモギの葉っぱが炎の形に似ていたからです。

 しかし、いつまでも隠れているわけにはいきません。猟師は意をけっして原っぱから飛び出しましたが、鬼のほうもすぐに気づいて追いかけてきました。どんどん逃げていって、今度はショウブの茂みに飛び込むと、鬼は「剣が生えているぞ。あいつはなんで平気なんじゃ」と言って、やはり近づいてきませんでした。ショウブの葉っぱが剣の形に似ていたからです。

 そこで猟師がショウブの葉を持って茂みの外へ出てくると、鬼は「剣が歩いてくる」といって震えながら逃げていきました。

 ちょうどその日は五月五日だったので、それからというもの、村のものたちは鬼を追い払うために、五月五日の端午の節句にヨモギとショウブを軒先につるすようになりました。

珍獣ららむ〜 2006年05月06日(土)00:45

怪異・妖怪データベース
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/index.html
ここで「菖蒲」を検索してみたのですが、
薮に逃げ込む話には下のようなバリエーションがあるようです。


◆飯食わぬ女房型
・けちな男が飯食わぬ女房を嫁にするが、その正体は頭に口のある鬼婆だった。
・正体がばれた鬼婆は、男を桶(または臼、風呂桶など)に入れてさらっていく。
・男は途中で木の枝につかまって桶から抜けて、菖蒲やヨモギの茂みに逃げ込む。
(1)菖蒲とヨモギの匂いで鬼婆が近づけない。(2)菖蒲やヨモギにふれた鬼婆は溶けて消えてしまう……など。


◆鬼と若者型
・男、または娘が山で鬼に会う。
・(偶然逃げ込んだところは鬼の家だったが老婆がかくまってくれる。しかし翌日鬼に気づかれてしまい……)
・菖蒲やヨモギの茂みに逃げ込む。
(1)匂いで鬼が近づけない。(2)菖蒲のとがった葉が鬼に刺さって鬼が死ぬ。……など。
※鬼に追われて逃げた人を豊臣秀吉のような有名人に設定してあることも。


 どちらの話も「以来、端午の節句にヨモギや菖蒲を軒につるすようになる」という話が続きます。蛇婿型と違って堕胎話がついてこないので、菖蒲湯や菖蒲の酒は出てきません。



 ほかに、岩手県では5月4日は山のバケモノがどんな悪事をしても許される日だということになっていて、だからって悪さをされても困るから、牧場の馬を厩に入れて、菖蒲やヨモギを家のまわりにさして魔よけにしたという話もあるそうです。

ユウ URL 2006年07月15日(土)11:48
晴れ

ヨモギが炎だったとは、意外でした!
面白いです!
いま東京の片田舎に住んでいるのですが、散歩するとヨモギがあちこちに生えていて、こんどヨモギ餅でも作ろうかな・・・なんて思っていたのですが、こんどは別の見方で見てみます(笑)
昔話って、その背景を探っていくと、興味が尽きません。ありがとうございました。

珍獣ららむ〜 2006年07月20日(木)20:29

 ユウさんこんにちは。昔の人は、生活の中で自然とお付き合いしているので、さりげなくて、しかも鋭い観察眼を持っていたのだと思います。ヨモギが炎に見えるなんて、ポエムですよねー?

 長らく更新がとまってた「日本みじかい昔話」ですが、また再開してみました。よろしくお願いします。