日本人ならメロン・バナナ・桃の缶詰になんらかの思い入れがある人は多い。どれも高級品で病気にならないと買ってもらえないものだったからだ。
もっとも今ではバナナも桃缶も安くなり仮病を使わなくても好きな時に食べられる。一方メロンは品種によっては気軽に食べられるようになったが、まだ高級品というイメージが残っている。特にマスクメロンと呼ばれる香りのたかい温室栽培のメロンは特別の存在である。
筆者は何度も入院したことがあるがマスクメロンだけは誰からも差し入れてもらえなかった。この上どのような重病になるとマスクメロンにありつけるのかが今後の課題である。
2006年追記、とうとう癌にもなってみたけど、まだマスクメロンの貢ぎ物はござーませんことよ。でも、マスクメロンはお金さえ出せばいつでも帰る。どっちかっていうとハミウリや真桑村のマクワウリとかを食ってみたいような気もする今日この頃。
さて、メロンの歴史であるが、その原種は東アフリカに自生していたと言われている。食用として、また薬用としても利用されていたが、ギリシア人、ローマ人、アッシリア人は、単に「熟れたもの」と呼んで、メロンとキュウリを区別していなかった。(参考>八坂書房『ファラオの秘薬』)。
プリニウスはキュウリ(Cucumis)という言葉で甘い瓜(おそらくはメロン)について言及している。"キュウリ"を甘く育てるために、蜂蜜を混ぜたミルクに二日のあいだ種を浸した後にまくとある。
ティベリウス帝は"キュウリ"が好物で、その食卓にキュウリののぼらない日はなかった。そのため彼の菜園係は車輪のついたプランターにキュウリを植えて、冬には囲いのある暖かい場所に移動してよく日に当てて育てたという。これは現在でいうところのハウス栽培・温室栽培にあたるものではないかと思う。
当時のメロン(キュウリと呼ばれていた)は、細長く、ひんまがっており、見た目もキュウリとあまり変わりがなかったと思われる。プリニウスはカンパニアで最近作られた新しいキュウリの品種として「リンゴカボチャ」というものをあげている。洋梨型で皮は黄金色。蔓を地面にはわせて栽培していたらしい。実は地面によこたわって育ち大きく丸くなる。ヨーロッパ型メロンの初期の頃のものだろうか?(参考[広告]>雄山閣
『プリニウスの博物誌(全3巻)』)
エジプトやヨーロッパ、中近東などで栽培化されたメロンは、中国をへて日本にも伝わった。日本は東アジア型メロンのマクワウリが縄文時代から食用にされていたと言われている。
ウリ科
Cucumis 属
メロン(Cucumis melo)東アフリカ原産
・ヨーロッパ型
カンタロープ
など
・小アジア型
スパイシー(夕張メロンはこの系統)
ハネデュー
など
・中央アジア型
ハミウリ(哈蜜瓜) など
・東アジア型
マクワウリなど
金真桑・銀真桑・甘露・梨瓜・悠紀・棗瓜などの品種がある
現在日本で食用にされるメロンは、これらを掛け合わせた交配種である。特に有名なのはマクワウリとヨーロッパ型のカンタロープを交配させて作ったプリンス型と呼ばれる品種である。1962年にプリンスメロンが現れてからというもの、各地でマクワウリをやめてプリンスメロンを栽培するようになった。マクワウリから作られ、マクワウリに取って変わったものであるから、プリンスメロンをマクワウリと呼ぶ人は多い。しかし本来マクワウリと呼ぶべきものはこれではない。他に皮に網目のあるものや、果肉がオレンジ色のものなど、さまざまな品種が存在する。
プリンス型
ヨーロッパ型のカンタロープ(ドゥ・ポッシュ)と棗瓜(マクワウリ)との一代雑種として作られ
1962年に発表された。実は丸く、皮に網目はない。ハウス栽培が基本。これが現れたことでマクワウリの栽培は衰退し、メロンの時代がやってくる。
マクワウリとの合いの子なので、未だにこれをマクワウリと呼ぶ人は少なくない(でも、いわゆるマクワウリとは別のもの)。
ハウスメロン・ノーネット型に分類してよさそうな気がするのだが、参考にした本ではプリンスだけ別格に扱っていた。
ハウスメロン・ノーネット型
ハウス栽培が基本で皮に網目のないもの。皮の白いホームランスター、黄色いキンショウなどの品種がある。
ハウスメロン・ネット型
60 年代後半に盛んに作られた品種で、皮に網目があり、果肉がとろけるように柔らかいのが特徴。かつてはさまざまな品種があるが、現在はアムスメロン、アンデスメロンの系統が主流。アールスメロンに似た味のものということで、名前にアールスのつく品種もあるらしい(本当にアールス系かどうかは未確認)。
ハウスメロン・ネット型赤肉
皮に網目があり、果肉がオレンジ色をしているのが特徴。夕張メロン、クインシーなどの品種がある。
温室メロン
ハウスと温室の違いがイマイチよくわからないのだが、ハウスメロンよりも高級感のある品として温室メロンというカテゴリーがあるらしい。
アールスメロンの系統が主流で、皮に網目があり、果肉は緑で柔らかく、甘みがある。
ハネデューメロンもこのカテゴリーに入るらしい。ハネデューは皮が白く網目はなく、甘みがあり、日持ちがする。アメリカでは露地栽培するが日本では温室栽培が基本。
いわゆるマスクメロンは温室メロンに含まれるが、品種名ではなく、アールスやハネデューのうち、香りの強いものを総称してマスクメロンと言う。マスクは
musk で麝香(じゃこう)の意味である(参考>小学館『食材図典』)。
他に、シロウリ、ハグラウリなど、甘くならない瓜もメロンの変種として扱われる。シロウリはインドへ伝わり、中国南部(越)で盛んに栽培されたもの。越瓜ともいう。
メロンについてはここも参照のこと>瓜づくしセール中・メロン