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 なんらかの繭をぶち壊すと、出てきたのはこれでした。
 がーん、これって思いっきり「なんとかイラガ」の幼虫じゃない!
 おそらく繭を作って間もないものです。黄色っぽい毒針が倒れて体に貼り付いてますが、まだ充分に幼虫の形をしています。この状態だと背中の模様がつぶれてしまって見分けにくいですが、よく見るとオレンジ色の毛の束のようなものが残っています。ヒロヘリアオイラガには体の一部分にオレンジの房毛があるのが特徴ですから、おそらくヒロヘリアオイラガだと思います。

あれま、アオイラガの幼虫だ?
2003年8月17日撮影

 でも、なんてことでしょう。アオイラガの繭は、もっと丸くて固いものじゃないですか。図鑑にもそう書いてあるし、そこらの木に、すでに中の虫が出て行ったあとのものならたくさんくっついてます。ヒロヘリアオイラガのほうは、繭の形について説明した図鑑がほとんどないのではっきりしないんですが、ごく近い虫なのでアオイラガと同じ繭を作るものだと思いこんでいました。

 でも、上の写真の幼虫は、一番それらしくないものから出てきてしまったんです。繭の写真をもう一度貼り付けてみましょう。これを見て誰がイラガの繭だなんて思うでしょうか。

アオイラガの繭?
2003年8月18日撮影

こんなのイラガの繭じゃな〜い!!
でも、中から出てきたのはヒロヘリアオイラガの幼虫でした。

 そこで仮説をたてました。

仮説その1
 見なれた固い繭を作るのはアオイラガだけで、ヒロヘリアオイラガは比較的やわらかい、不定型な繭を作るのではないか?

仮説その2
 アオイラガもヒロヘリアオイラガも、似たような繭を作るが、繭になりたての頃は不定形にべんにょり木にくっついていて、繭が乾いてくるとキューッと引き締まって丸く固い見なれた繭になるのではないか。だから羽化後の穴のあいた繭は固くて丸いものばかりになる。

仮説その3
 単なる個体差。出来のいいものと出来の悪いものとの違い。アオイラガもヒロヘリも、ほぼ同じ繭を作る。

 もし1が正解なら、アオイラガとヒロヘリアオイラガは繭を見て見分けられるということです。

 2は、自分で仮説をたてといてなんですが、自分でも信じられません。でも、この後の繭ぶち壊し実験によって、もしかしてと思うフシもあります。

 3は、かなりイイカゲンなようですが、自然のものなので、出来損ないの存在も否定しきれません。ただ、出来損ないで片づけるには多すぎるんですが。

 
 こうなったら、もっとたくさんの繭をぶち壊してみようと思うんです。
 イラガの繭は石のようにカチカチだと思いこんでいましたが(実際、並イラガの繭はすっごく固いですよ)、この日、珍獣様が破壊した繭は、そこいらに落ちている細い木の枝でほじくり返すと簡単に壊れました。比較的丸みのあるものも、思ったより固くはなく、棒でつついているうちに何度か失敗して中の虫をぶちゅっとやってしまいました。

 失敗を乗り越えて、最後に取り出したのが下の物体です。

蛹(さなぎ)だ…
2003年8月18日撮影

 蛹(さなぎ)であることは間違いありません。でも、なんの蛹でしょうか?

 
太っ腹?
2003年8月18日撮影

 背中がずいぶんカッチリしてますよね。それに太い腹。蝶や蛾がこんなに太い腹をしているものかと、この時は思いました。でも、少し前にお見せしたように、ヒロヘリアオイラガはかなりの太っ腹なんです。ひょっとして…??

 
裏返してみました
2003年8月18日撮影

 背中がわからではわかりにくかったのですが、できかけの翅が腹側にたたまれていました。翅の縁(へり)に黒い帯があります。
 …やっぱりこれは、ヒロヘリアオイラガ??翅の縁に斑文があるのはアオイラガも同じですから、ひょっとするとアオイラガかもしれません。とにかく、べんにょりと幹にへばりついている繭も少し丸みのあるものも、すべてアオイラガの仲間の繭であることは間違いなさそうです。

 問題は、仮説1〜3のどれが正解かってことですが、これはアオイラガ、ヒロヘリアオイラガを幼虫のうちから沢山育ててみるしかありません。今は幼虫の季節ではないので実行できませんが、いずれ挑戦してみようと思います。いつになるかわからないけど、乞うご期待!


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