さとり
 

 ある寒い夜のこと、男が山小屋で火にあたっていました。そこへ、毛むくじゃらの化け物がやってきて、火のむこうにちょこんと腰をおろしました。

 男が頭の中で
<<いやなヤツがきたな>>
と、考えると、さとりは
「今お前は<<いやなヤツがきたな>>と、思っただろう」
と、いいあてました。

<<これが「さとり」という化け物か>>
と、考えると、さとりは
「今お前は<<これが「さとり」という化け物か>>と思っただろ」
と、いいあてました。

 男はもうあきらめて、柴を折って火にくべようとしたら、柴がかけてパンとはねて、さとりの顔にあたりました。すると、
「うわあ、いてえ。人間ってのはおそろしいもんだ。心に思ってねぇことをしやがる」
といって、さとりは山へにげていきました。
 

●オドテさま(岩手県九戸郡) 未来社『日本の民話1』
 オドテさまはフクロウのようで下半身は人間のようにも見える。ドテンドテンと鳴き、人の考えていることを言い当て、明日の天気や失せ物を占う。その占いは不思議とはずれることがなかった。

 ある男の家にオドテさまが住み着いた。あちこちから人が集まってきて、オドテさまにお伺いをたてては、賽銭をおいて帰った。

オドテさまは梁にとまって天井ばかり見て暮らしていたが、ある時ふと下を見ると、賽銭箱に大金があふれているのが見えた。オドテさまは突然大笑いして、ドテンドテンと叫びながらどこかへ飛んで行ってしまった。
 

◆こぼれ話◆

 さとりの妖怪は日本中にいる。各地でさまざまな呼び名があり、姿形もまちまちだ。

 山梨のさとりはカボチャのような大きく丸い頭をして、ひとつ目で低い鼻を持っている。名前はざらざらざった。

 同じく山梨にはおもいの魔物と呼ばれるさとりがいる。

 静岡県のさとりはザザラザッタラという名前でカボチャのようなあばただらけの玉だという。

 他の地方では顔は梟(ふくろう)で体が人間のものもいる。また、天狗だったり山姥だったりすることもある。狸(たぬき)や狢(むじな)の場合も。

 徳島のさとりは山父という名前でひとつ目一本足。

 岩手県九戸郡のさとりは上半身が梟で下半身は人間に似ている。名前はオドテさま。

 人の心を読むといえば、中国には猩猩という妖怪がいる。猿のような妖怪で、人の名前を言い当てたり、悩みを見抜いて解決法を教えてくれたりする謎の生き物である。

山海経動物記・ショウジョウ

 
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