打出の小槌
 
 
 働き者の嫁さんがいて、朝から晩までくるくると働いておったと。
 ところが夫のほうはどうしようもないグズで、朝から酒ばかり飲んで寝ていたんだと。
「あんたも男だったらちっとは稼いできておくれよ」
 嫁さんがそういうと、男は決まってこう言った。
「なあに、もうちょっとしたら、がっぽり儲けてやるからさ」
 けど、寝てたんじゃ儲かるわきゃないわいな。
 そうやって夫がいつまでもぐうたらしてるから、嫁さんはとうとう怒って家から追い出してしまったんだと。

 家を出されては昼寝もできやしない。
 ぐうたらな夫は神社の大黒さんに
「どうか運をさずけてくだせえ」
と祈願したんだと。
 すると、目の前に福々しいお姿の大黒さんが現れて、
「運が欲しいだか。なら、この打出の小槌をやるから宝さ出してみろ」
と言って消えてしまったんだと。

 ぐうたら夫はびっくりして、
「今のは幻だったんだべか」
と思ったけど、ハッと気づいて見たらば古ぼけた木槌を握りしめているんだと。
 ははあ、これが打出の小槌だな。
 したらば草鞋がすり切れそうだで出してみるべ。
「わらじ、わらじ、わらじ…」
そう唱えながら、小槌をふり下ろしてみると、向こうの方から草鞋売りがやってきて、
「草鞋がほしいっつのはあんたか」
って言うんだとさ。
「んだ。草鞋がすり切れて困ってたところだ」
「なら、売れ残りやるから持ってけ」
って、新品の草鞋をくれたんだと。

 こりゃ本物の小槌だっていうんで、夫はかけって家に帰った。
「おっかあ、とうとう運をつかんだだぞ」
と、大黒様からもらった打出の小槌を見せたんだと。
 すると、嫁さんは大笑いして、
「そんただうまい話あるもんでねえ。おおかた夢でも見たんだろうさね」
ってぐうたら夫を相手にしないんだと。
 夫は怒って、
「黙って聞いてりゃいい気になって、この鼻くそめ!」
と叫んで、小槌を握りしめてるの忘れて手をふりあげたんだと。
 あ、と思った時にはおそかった。
 小槌が嫁さんの頭にあたると、嫁さんはたちまち鼻くそになって飛んでいってしまったんだと。
 ぐうたら夫があわてて鼻くそを探したけど、どうやってもみつからなかったんだと。
 

◆こぼれ話◆

打出の小槌というのは、念じながら打ち下ろすと願いがかなう不思議なトンカチのこと。木製の木槌だったり、鉄製の金槌だったり、はっきり定まった形はなさそうだ。

 大工さんは木槌や金槌を使って何もないところに大きなお城を作るし、鍛冶屋さんは金槌で熱い鉄を打って刀やハサミを自由自在に作り出す。魔法のように何でもかなうとはいかないまでも、槌というのは現実に不思議な道具なのだ。

 打出の小槌についてはこちらもどうぞ。

お道具図鑑・打出の小槌
 
目次珍獣の館山海経博物誌直前に見たページ