大岡裁き(一)子争い |
大岡越前(おおおかえちぜん)という人は立派な奉行であった。奉行というのは今でいう裁判官のことで、争いごとや事件があると、人々の話をよく聞き、こうして解決すればよいと裁くのが仕事である。 大岡様の名裁きはいろいろあるが、ここでは「子争い」と呼ばれる話を二話ご紹介しよう。 引き勝ったほうが勝ち? ある時、ふたりの女がひとりの子を連れてやってきた。たがいに「自分こそこの子の本当の母親です」といって一歩もしりぞかない。 そこで大岡様はこう言った。 「子の腕を持て。お前は右じゃ。そちは左を持つがいい。それから力いっぱい引き合って勝ったほうを実母とする」 女たちは子供の腕をおもいきり引っぱりはじめたが、子供が痛がって泣くので、一方の女が思わず手を放した。 勝った女は喜んで子を連れてゆこうとしたが、大岡様は
勝った女は納得できず、
そこで大岡様はおっしゃった。
乳汁の重い方が勝ち?(遠野版) 嫁と姑が同時に子をはらむが、産婆が赤ん坊を産湯につからせている間に、どの子がどちらの子かわからなくなってしまった。
「ひとつ、ふたつ…と数えてゆくと、とうだけ "つ" がないのはどういうことでございましょう」
近くで聞き耳をたてていた大岡様は、子供達の頓知に心の中で感心する。さらに続きを聞いてみると… 「うむ。では次の者、訴えを申し述べよ」
男の子を産めば濃い乳がたくさん出るものである。
大岡様は奉行所にもどり、さきの嫁姑を呼び乳汁を計らせた。すると姑の乳が重かったので男の子は姑の子とわかり、一件落着となった。 また、大岡様は山奥で見た一本柱の家をヒントにして、傘というものを発明したという。
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◆こぼれ話◆
お馴染みの大岡裁き。
子を引き合う話は旧約聖書の列王紀にソロモン王の逸話として出てくるのと似ている。 同じ家に住むふたりの娼婦は、三日ちがいで男の子を生みおとす。ところが片方の女が寝返りをうったときに我が子を下敷きにして殺してしまった。そこで死んだ子をもう一方の子ととりかえてしまう。剣で切り分けよというソロモン王もかなりのツワモノだが、偽物の母親はもっとすごい。「早く切り分けてください。自分のものにならないとしても、その女にとられるのだけはイヤです!」と言うのだ。子供が欲しいというより、ライバルの幸せを見せつけられるのがイヤだったのかもしれない。 もともと大岡裁きは史実ではなく、古典をもとにしたフィクションばかりだという。ソロモン王の話が直接影響をあたえたと言うのは突飛だが、よく似た話は中国の古典『棠陰比事』にもある。 ある兄弟が同じ家に住んでいた。兄の嫁と弟の嫁は同時に懐妊し、兄嫁の子は腹の中で死んでしまった。けれど兄嫁はこのことを黙っていて、まもなく生まれた弟の嫁の子をうばいとって自分のものにしようとした(跡継ぎがいないとその家の財産を自分のものにできないから!)。 珍獣の館内・大岡越前関連リンク 今昔かたりぐさ「縛られ地蔵」 昔話の舞台を訪ねて「縛られ地蔵」 |
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