ミョウガの宿 |
むかし、あるところに、因業な夫婦がいとなむ宿があったとよ。 不景気で客がへって、いつもいつも愚痴ばっかりいってたと。 あるとき珍しくお客があってのう。来るなりふところから財布を取り出して、
これには因業夫婦もびっくり。 「今度の客はたいそうな金持ちじゃ。寝床も食事も、どんなつまらないものでも上等なものだと言ってすすめるだぞ。きっとお足をたんまり置いていってくださるさ」
「アタシにいい考えがあるんだよ。ミョウガを食べると物忘れがはげしくなるっていうじゃないか。ちょうどミョウガの季節だし、当地の名物だってたんまり食べさせたら、財布を忘れて帰るんじゃないかねえ」 それで夫婦はミョウガをどっさり買ってきて、ミョウガの汁に、ミョウガの浸し、ミョウガの酢の物、ミョウガの天ぷらと、ミョウガばっかりお客にすすめたんだと。 あんまりミョウガばっかり出てくるので客人も首をひねって、
そうして夜になり、朝がやってきた。
「アンタ、やっぱり忘れていったよ」
因業夫婦は客人が置いてった財布を握りしめて、しめしめと笑ったんだと。 そこへ急にさっきのお客がもどってきてのう。
夫婦は内心で冷や汗をかきながら、
そうして客人が本当に行ってしまうと女房が言うんだと。 「ところでアンタ、宿代はちゃんともらったのかい」
ミョウガばかりすすめているうちに、肝心の宿代をとりわすれたんだとよ。
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◆こぼれ話◆
ミョウガと物忘れの間には、大した根拠はないらしい。お釈迦様の弟子にまつわる伝説が由来になっているとか。 詳しくは>茗荷尽くしで冥加も尽きる?
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