三峯山の犬 |
秩父にある三峯神社では、火事や、どろぼうをよけるお守りで有名です。このお守りをもらうことを、地元では「犬をかりる」といいます。犬は三峯さんのおつかいだからです。 ある日、へそのまがった男がお札をもらいにきて
ところが、とちゅうまでくると、なにかにつけられているような気がしてふりかえりました。見ると、すこしはなれたところに大きな狼がいて、じっとこちらをみています。 男は、おそろしくなって、足ばやに山をおりようとしましたが、狼はどこまでもおいかけてきて、すこしはなれたところから男をずっとみていました。 狼がおそってくるけはいはありませんでしたが、さすがにおそろしくなった男は、あわてて神社にかけもどり、
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◆こぼれ話◆ 三峯神社はヤマトタケル東征のときに作られたもの。タケルの尊が秩父の山にさしかかったとき、その自然があまりに美しいので、この国をつくったイザナギ・イザナミの神に思いをはせて、神社をつくったといわれている。 当時、神社のある山には名前がなく、タケルの尊の兄にあたる景行天皇が、弟が平定した国々を巡幸したときに、上総国(今でいう千葉県)で秩父の山の話をすると、そこが三つの峯のつらなる美しい山であることを知らされ、三峯山、三峯神社という名前がつけられた。 三峯さんのお使いが犬だとされるようなったのは江戸時代からで、1727年 9月 13日に日光法印という人が庵で静かにすわっていると、山から狼が現れて部屋に入ってきた。このことを、神のお告げだと感じ、鹿猪よけ、火盗難よけのお守りとして犬札を発行したところ、たいへんな評判となり、信者を集めた。 もともと、このあたりの山では、狼を恐ろしいものとしてではなく、身近なものとしてとらえていた。狼が近くにいれば畑を荒らす鹿や猪をおいはらってくれるし、盗人どもも狼をおそれて近付かない。また山で火事がおきれば狼たちがいちはやく気づいてさわぎはじめる。 そのため、狼は三峯さんのお使いとして、自然に受け入れられることとなり、狼は大口真神と呼ばれて、神として祀られることとなった。こうして三峯さんでお札をもらうことを、犬をかりると言うようになった。 欧米では、狼はあくまで家畜をおそう悪役でしかないが、日本では狼を神の使いとして信仰しているケースが多く見られる。北海道アイヌも狼をオーセカムイと呼び、狼の狩り場は荒らさないようにしていたという。夫に先立たれた女性は、山で狼が食べ残した獣をひろって暮らしたとも言われている。そのため、アイヌは狼を女性の守護者としていた。 本物の犬をかせといって狼につきまとわれる男の話は『耳袋』という江戸時代の随筆集に含まれている。著者は町奉行を三十年もつとめた役人で、仕事がら耳にする機会のおおかった面白い話を紙にしたため、袋にいれて保管しておいた。これをまとめたものが『耳袋』である。
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