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ヘソの下
日本の昔話

 昔、雷のお嫁さんになった人が、五段の重箱を手みやげに里に帰ってきた。それはもう、りっぱな重箱で、さぞやすばらしい珍味が入っているのだろうと、里の両親は大喜びで開けてみた。

 一番上の箱を開けると、なにやら丸いものがゴロゴロ入っている。よく見ると人の目玉だった。

 二番目の箱を開けると、今度はなにやら平たいものが入っている。よく見ると、人の耳だった。

 三番目の箱には鼻が入っていた。そして、四番目の箱にはヘソが入っていた。

 雷さんはヘソを取るというが、目や耳や鼻まで取るんかいなと両親はびっくりするやら呆れるやら。さて、最後の箱にはどんな恐ろしいもんが入っているんかいのうと、緊張しながら箱に手をかけた。

 すると娘が顔を真っ赤にして、最後の箱だけは開けないでほしいと言うのだった。

「おや、どうしたんだい。これ以上何が入っていたって、わしらは驚きやしないよ」
と、父母がなだめるが、娘は下をむいてもじもじしたまま、どうか開けないでほしいと言うばかり。

「お前がどうしてもイヤだというなら開けずにおくが、せめてわけくらい聞かせてくれんかいのう。このままじゃ気になって夜も寝れんようになるわい」

 父にそう言われると、娘はもっと顔を赤くして、口の中で小さくぼそっと、
「だって、ヘソの下ですもの…」
と言って、恥ずかしそうに両手で顔を隠したんだってさ。

 

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