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外科不具を治せし事
『耳袋』より

 私のかかりつけの外科医に阿部春沢というものがいる。これはこの男が話したことだが、実に不思議な症例を治療し、手柄をあげたという。

 牛込赤城明神の境内にて、ひそかに春を売る者がある。その元締めが、ぜひ見てやってほしいと言うので出かけてみると、患者というのは年のころ十五、六歳の妓女であった。

 とても美しい娘で、顔色もよく、これといって病気もなさそうに思える。どのような心配があるのかとたずねると、主が言うには
「この子はつい最近入った子でしてね。いい子なんだが陰道がないとは気づきませんで。おかげで大損ですわ」
と、ひどく残念そうな様子である。

 そこで娘の容態を見ると、前陰に小便の道はあるものの、陰道がない。これはどうしたものか。おそらく皮が癒着してふさがっているだけで、その下には陰の道がそなわっているであろうと考えた。

 そこで、その日は帰り、仕度をして次の日に訪ねて治療することにした。
 まず、娘の手足を間柱に結び、焼酎をわかし、独参湯(薬)を用意して、きれいにふさがっている前陰を切り破った。娘が気絶したので独参湯を与え、焼酎で洗った。

 傷跡には軟膏を塗るようにと指示して帰ったが、このほど傷もすっかり癒えて、勤めにもはげむようになったという。親方もまた大変よろこんでいると言うことだ。


 文中で「私」とあるのは『耳袋』の編者である根岸鎮衛のことです。話が具体的なので、実話なんじゃないかと思うんですけど、縛り付けて一刀両断だなんて、かなりマニアックな話でしょ??
 
 お話に出てくる独参湯というのは朝鮮人参(参というのが人参のことです)配合の気付け薬のことです。その効き目があまりに素晴らしいというので有名でした。
 
 歌舞伎の世界では、客入りが悪くなると『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』といった人気のお芝居をかけますが、どんな時にも爆発的ヒットになる人気芝居のことを「芝居の独参湯」といいました。瀕死の業界に効果覿面の気付け薬ということです。
 
 なお、女陰のない女の人の話はほかにもいくつかありまして、『続古事談』には

 
 ある医者のところへ十七、八の娘がやってきて、
「あの…わたし、あそこの穴がないんです。どうしたらいいでしょうか」
というので、
「どうしたらって言われてもねえ。ないものはどうにもならんよ」
と言って帰した。
 別の医者がその話を聞いて、
「君を治せるのは私だけだ」
と、娘を呼び、針のような細い刀で娘の股を切り裂いて女陰を作ってやった。おかげで娘は普通の人のようになったということだ。まったく珍しい話ですな。


…と(かなり適当な訳ですが)、こんな話があるそうです。

道祖神

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