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外科不具を治せし事
『耳袋』より 私のかかりつけの外科医に阿部春沢というものがいる。これはこの男が話したことだが、実に不思議な症例を治療し、手柄をあげたという。 牛込赤城明神の境内にて、ひそかに春を売る者がある。その元締めが、ぜひ見てやってほしいと言うので出かけてみると、患者というのは年のころ十五、六歳の妓女であった。 とても美しい娘で、顔色もよく、これといって病気もなさそうに思える。どのような心配があるのかとたずねると、主が言うには
そこで娘の容態を見ると、前陰に小便の道はあるものの、陰道がない。これはどうしたものか。おそらく皮が癒着してふさがっているだけで、その下には陰の道がそなわっているであろうと考えた。 そこで、その日は帰り、仕度をして次の日に訪ねて治療することにした。
傷跡には軟膏を塗るようにと指示して帰ったが、このほど傷もすっかり癒えて、勤めにもはげむようになったという。親方もまた大変よろこんでいると言うことだ。
「あの…わたし、あそこの穴がないんです。どうしたらいいでしょうか」 というので、 「どうしたらって言われてもねえ。ないものはどうにもならんよ」 と言って帰した。 別の医者がその話を聞いて、 「君を治せるのは私だけだ」 と、娘を呼び、針のような細い刀で娘の股を切り裂いて女陰を作ってやった。おかげで娘は普通の人のようになったということだ。まったく珍しい話ですな。
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