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アレをどこにつけるか(二)
 アイヌの昔話

 天の神様たちが人間を作った時、子孫繁栄に必要なあの部分をどこにつけようか、大変な論争がおこった。なんせ神様たちは論争好き。たがいに自分の意見がどんなにすばらしいか主張し合ってゆずらない。それでもなんとか話がまとまって、子作りというのは大事な仕事なので、誰にでもわかりやすいように額につけておけばよかろうと決まった。

 ところで、世界を形作る作業はコタンカラカムイ(国造神)が一手にひきうけていた。やっと大地がかたまりかけたばかりの頃だったから、コタンカラカムイは自ら地上におりて、毎日いそがしく働いていた。天上で論争があったときも、この神様だけは地上にいたので話し合いの内容を知らなかった。

 天の神様たちは、伝令役のカワウソを呼びつけて、さきほどの会議で決まったことをコタンカラカムイに伝えるようにと命令した。

 カワウソはふたつ返事ですっとんで行ったが、元来わすれっぽい正確で、おまけに遊び好きと来ているから、途中で魚をおっかけまわして遊んでいるうちに、伝える内容をすっかり忘れてしまった。

 「しまった、アレはどこに付けるんだったっけな。鼻の頭だったかな。それとも、手のひらだったかな」と考えをめぐらすも思い出せない。仕方がなく、あんなものどこについていたって大した違いはないだろうと高をくくってコタンカラカムイのところへ詣でると、

「天上の神様からの伝令です。人間たちのアレは股に付けることに決まりました」

と涼しい顔で報告してしまった。

 コタンカラカムイは「股とはおかしな場所に付けるものだなあ」といぶかしくは思ったが、話し合って決めたことなら仕方ないと、カワウソの言う通りにしてしまった。あとで正しい話を聞いたときには時すでに遅し。人間はすっかりいい具合に股をかさねあわせて子づくりにはげむようになっていた。

 そういうわけで、アレは股の間にある。

 

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