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鶯の谷渡り
 日本の昔話

 むかし、ある男が旅に出ることになった。
 男にはたいそう別嬪さんの妻があったが、自分の留守に間男がつくんじゃないかと気が気でならなかった。
 そこで男は、旅立ちの前の晩に妻を裸にして、両足のあいだの隠し所に「鶯」という字を書いた。

 そうして旅に出て帰ってくると、さっそく妻を裸にして、隠し所を見せるように言った。
 果たして鶯はそこにあった。
 しかし男は真っ赤になって怒り出した。

「おらの居ぬ間に男と寝ただな?」

 鶯の文字を隠し所の右側に書いたのに、帰ってみると左へ移っていたのだ。
 妻は青くなって、そんなことはないと言うのだが男は聞かなかった。お前のような不貞な女とは一緒にはいられないと三行半をつきつけた。

 いくらあやまって許してもらえないので、妻は仲人に泣きついて取りなしを頼んだ。
 あいかわらず怒りのおさまらない夫から一部始終を聞くと、仲人は高らかに笑いながらこう言った。

「字が移ったって、そりゃあんた鶯(うぐいす)じゃ仕方ねえ。鶯ってやつは谷渡りをするもんだ。右から左へ奥方の谷をわたって自分で移ったんだろうさね」

 これを聞いて、男もやっと怒りがおさまり、妻を許してやることにしたという。

 

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