窮奇について
もうちょっと |
前のページでは「虎のようで翼がある」という特徴から、窮奇の正体が鯱(シャチ)ではないかと言ったが、「鯱」という文字を漢和辞典でしらべてみると国字とある。つまり、日本産の漢字という意味だ。
鯱というのは、イルカやクジラの仲間であるシャチのことだが、そのほかに、名古屋城の天守閣で反り返ってる金色の魚のこともシャチ(シャチホコ)という。鯱という文字が日本で作られたのだとしたら、シャチホコは日本産のバケモノなのだろうか? そう思って、手元にある資料をめくってみたところ、次のような文章をみつけた。 日本の大きな城の屋根の上にある、向かいあった龍の頭の魚をご存じでしょうか。これを魚虎(あるいは鯱)と呼び、魚虎を置くことで火災が避けられるといわれていました。どうやらシャチホコは中国起源のものであるらしい。 この文章の魚虎が、中国のどんな書物に出てくるのかわからないのであくまで想像になってしまうが、『幻想世界の……』で「腹の下に羽根」と説明しているのは、おそらく原文では「翼」と書かれているのではないかと思う。翼という文字は鳥が空を飛ぶために使う部分だけではなく、魚の胸びれのように、胴体の左右に広がる平たいもののことも翼というので、中国の古い本には魚に翼があるように書いたものが多いのだ。 魚虎と窮奇の特徴を表にしてみると……
このようにかなりの部分で一致しており、どうやら同じもののように見える。
魚虎は普段は、鯨の口の近くにいます。これは、鯨は小魚を食べてもいいが大きい魚を食べてはいけない、という海の掟を守っているかどうか、監視するためです。もし鯨が掟を破って大魚を食べるようなことがあれば、魚虎は鯨の口にすぐさま入っていって舌を噛みきり殺してしまうといいます。鯨というのは、あれほど大きいのにプランクトンや小魚しか食べないのだが、そんな鯨の性質を魚虎の伝説はよく表している。ところが、鯨の仲間でありながら、イルカやアザラシを襲って食べる凶暴なやつがいるのだが、それが日本語でシャチ(サカマタ)と呼ばれる生き物だ。魚虎(鯱)はもともと鯨のお目付役のことだったが、日本では掟破りの悪い鯨の名前にこの字を当てるようになったのは偶然ではないだろう。魚虎に殺されるような悪い鯨、鯨でありながら虎のように凶暴……という連想から、シャチ(サカマタ)に魚虎(鯱)という文字をあてるようになったのではないだろうか? |
コバンザメ(コバンザメ科) | 話をもどして、窮奇の正体である。魚虎が窮奇と同じものだとして、その正体をもうひとつおもいついた。コバンザメである。
コバンザメにはトゲはないし、虎のように凶暴でもないが、第一背びれが吸盤のようになっており、これで大きな魚の腹に吸いついて運ばれる。 |
自分ではほとんど泳がず、餌場についたときだけ大魚から離れて餌をさがすか、大魚のおこぼれをもらって生活しているらしい。
鯨にばかりくっついているわけではないが、鯨のお目付役にはお似合いであろう。 |
|
また、コバンザメのように吸盤は持っていないものの、大魚のおこぼれをもらって生活する小魚は他にもいるし、大きな魚の口の中にはいりこんで寄生虫などを食べている小魚もいる。
魚虎の伝説を読んでいると、古代人の観察力の鋭さをあらためて感じさせられるのだ。 |
|