キュウキ
窮奇

 窮奇は、かたちは虎のようで翼があり、人を食うのに首からはじめる。(海内北経)--598

 頂上に獣がいる、そのかたちは牛のよう、はりねずみの毛、名は窮奇。声は犬のほえるよう。これは人食いである。(西山経四の巻)--120 

『山海経』より

 
 窮奇については、牛と虎の合体獣としてすでにとりあげたが、ここでは別の切り方をしてみよう。注目したいのは、海内北経の「虎のようで翼がある」という部分。
 翼という文字は、胴体の両側に張り出した部分のことで、鳥の翼だけでなく、魚の胸びれも翼と表現されることがある。

 

 この字を知っているだろうか?
 「さかなへん」に「とら」と書いて、「シャチ」と読む。

鯱(しゃち) シャチ(サカマタ)
 クジラやイルカと同じく海に住む哺乳動物で、小さな群を作って生活している。小魚やイカをとって食べるほか、小型のクジラ類を襲って食べることもある。
 凶暴なだけでなく、頭も非常によく、人にも慣れ、芸を覚えたりもする。
 世界各地の海に住む。
 よく「シャチはイルカですか、クジラですか」という質問をされるのですが、そもそもイルカとクジラは呼び名が違うだけで、同じクジラ目の生き物である。クジラ類の中の、わりかし小さくてくちばしが長めの種類をイルカと呼び、大型でくちばしが短めのやつをクジラと呼んでることが多いようだ(例外もたくさんある)。

 シャチもやはりクジラ目の生き物だが、しいてイルカかクジラかに分けるとしたら、だいたい 4 メートルを越えるものをクジラと呼ぶことが多いようなので、体長 6 メートルを越えるシャチはクジラの仲間だと思う。英語名でもキラーホエール(殺しクジラ)というくらいだから。

 クジラやイルカの仲間は、小魚やオキアミのような小さな生き物を食べることが多いが、シャチに限ってはアザラシのような大型の獣を襲って食べることもあり、その凶暴な性格からクジラと呼び分けているのだろう。鯱という漢字も、海にいるトラのような強い生き物という意味で作られた文字なのだろう。鯱という文字は「虎のようで人を食い、翼がある」という窮奇をほうふつとさせる。

 ただし、海内北経にしても、西山経にしても、窮奇が海にいるとは書いていない。また、鯱 という文字そのものは国字といって、日本で作られた漢字である。シャチと言い切るにはちょっと苦しいかもしれない。

 
 
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