ルイ
鳥にはルイが多く、そのかたちは鵲(かささぎ)のようで、赤黒くて二つの首、四本足、火をふせぐのによい。(西山経一の巻) 絵・文とも『山海経』より
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ルイという文字はムササビを意味する文字だ。
ムササビは鳥ではないが古い文献には鳥だと書かれることもよくあった。手足の間にはった膜を広げ、木から木へと滑空することから鳥の仲間だと思われていたのだろう。今でも河北省あたりではムササビのことを寒号鳥と言うそうだ。 毛皮は黒褐色で、毛の薄い鼻先がピンク色に見えるので、赤黒い体といえるかもしれない。 |
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ムササビ
日本では、北海道と四国を除いた各地に棲息。中国では甘粛・四川・雲南省で見られる。樹木の花・葉・果実など、植物質のものを好んで食べる。夜行性で、夜になるとグルルルなどと鳴く。 |
また、「火をふせぐのによい」という特徴は、日本の古典『竹取物語』に出てくる火鼠の皮衣を思い起こさせる。唐土(中国)にいる火鼠という生き物の皮は火にくべても燃えないというのだ。
おそらく、これは石綿のことだろう。理科の実験で、白い綿のようなものを貼った金網を使ったことがある人は多いと思う。ビーカーを加熱するとき、急に温度が上がって割れないよう下に敷く、あれのことだ。 ある種の鉱物が綿のようになったものだが、燃えにくいので家の防火剤などにもよく使われた(最近では発ガン性があるというので見かけなったが)。 平らに固めた石綿は、一見するとごわごわした布のように見えるので、昔は生き物の毛皮だと思われていたようだ。『山海経』の作者はルイの毛皮こを石綿と思っていたのだろうか。それとも、ルイの多くいる地方で石綿の原料になる鉱物が多かったのかもしれない。 |
『山海経』の挿し絵では鳥を二羽並列にくっつけたような生き物だ。たしかに本文には「首がふたつ、足が4本」とあるので間違ってはいないが、これではあまりムササビやモモンガのようには見えない。だったら、縦列に、しかも尻あわせにくっつけたらどうだろう?そう思って描いてみたのがこれ。
ムササビは尾が太くて長いので、頭が前後についているように見えたんじゃないかと思うのだが? |
[参考] 中国の古い本に見えるムササビ
出典など詳しいことは難波恒雄/著「原色和漢薬図鑑(上・下)」保育社という本でムササビについて書かれた部分を参照してください。 寒号虫は四足にして肉翅があり、遠くへは飛べない。 肉翅で飛ぶというのは、肉の膜で飛ぶということ。滑空するだけなので遠くへは飛べないというのも、ムササビ(またはモモンガ)の特徴と一致する。虫というのは小動物全般をさす文字である。曷旦(ムササビ)は時刻をうかがい知る鳥であって、五台の諸山(山西省東北部の山)にはなはだ多い。そのかたちは小さい鶏のようで、四足に肉翅があり、夏期には毛に五色の彩りがあり、その喝声は『鳳凰不如我』冬には毛が落ちて鳥の雛のようになり、寒さを忍んで『得過且過』と泣き叫ぶ。 肉翅があることなどはムササビを思わせるが、やはり鳥と勘違いされている。おそらく鳴き声もムササビのものではなく、別の生き物(おそらく鳥)と勘違いされているのだろう。 |
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