ロウシツ
獣がいる。そのかたちはイノコ(豚)のようで角があり、その声はさけぶよう。名はロウシツといい、これを食べれば目がかすまない。(中山経二の巻)--286
文は『山海経』より |
ブタの特徴は蹄があること、尾は先だけ房になっていること、肉付きがよいことなどだ。また、イノシシならば首筋のたてがみが目立つ種類もいる。 |
角のあるブタと聞いて、最初はサイのことだと思った。体つきはあまりブタっぽくはないが、サイも蹄のある生き物だし、尾は先だけ房になっている。 中国ではサイの角を古くから薬として珍重しており、『山海経』にも 犀 という文字が十回ほど登場する。 |
ロウシツの想像図
『山海経』には挿し絵がないので、こんなのを想像してみた。サイだと思ってたから角は2本で前後に並べて、鼻面にはスペースがないので頭の上にくっつけて……あら、けっこう可愛いじゃない(そうか?)。 |
漢代に作られた犀の土偶
この土偶は豚っぽくはないけれど、どことなく珍獣様が書いたロウシツの想像図と似てる? |
中国では角の部分だけを外国から輸入していたらしく、サイそのものがどういう生き物だったか正確に把握していたわけではない。たとえば左の図のような、牛とも馬ともつかない生き物を想像していたようだ。 サイをウシにたとえるのは、その足に蹄(ひづめ)があること、体が大きいこと、角があることが理由だと思う。 けれど 本物のサイは、首が短く、腹も太い。実物を見てしまうと、ウシともウマとも呼びたくない。 |
ウシでなければなんなのか。
これまた、かなり無理はあるが、あのずんぐりした体は強いていえばブタではないかと思う。つまり、角のあるブタというわけだ。 ロウシツをサイとする説はもっともらしい。しかし、さらにさわしい動物を見つけた。バビルサというイノシシの一種だ。 |
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バビルサというのは現地の言葉で「豚鹿」という意味。鹿みたいに角が生えている豚だからだ。
顔から生えている角のようなものは、実は上あごの犬歯(牙)。三日月のように反り返ってのびるので、顔の皮膚を突き破って生えてきてしまうのだそうだ。
人間にたとえて言うなら、親知らずが明後日の方向にのびつづけ、ほっぺたを突き破って外へ出てくるようなものだろうか。バビルサの場合、そういった異常なことが通常の性質として備わっている。進化の道筋をどう転ぶと自分自身を傷つけるような性質を獲得するのだろう。時として現実は空想をはるかに超えるものなのである。 なお、面の皮を突き破ってのびるのは上あごの犬歯だが、下あごの犬歯も長くなるので、ぱっと見ると角が4本あるようにも見える。こんなふうに「豚鹿」になるのはオスだけ。メスの牙は角のようにはならない。
このとおり、バビルサはまさに角のある豚と言えるが、この生き物の生息地はインドネシアのスラウェシ島である。中山経が扱う範囲に含まれるかどうかあやしい。これと断定するにはもう一歩ふみこんだ手がかりがほしい。
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海外のバビルサマニア(?)のページ
日本のサイトを検索してみたが、バビルサの写真が見られるような場所がみつからなかった(1999年現在)。仕方ないので海外のサイトから「babirusa」でひいてみると、このページがヒットした。 なんせ英語なので何が書いてあるのかよーわかりませんが、バビルサ様のかっこいいお写真が見られます。 Matt Keeling, Spatial Babirusa Model国内のバビルサマニアのページ ついに出た、日本のバビルサ専門サイト!! バビルサの美しい写真がいっぱい。貴重な資料がたくさんあります。そうなの、こーゆうのを探していたのよ〜。 Encyclopedia BABIRUSA(バビルサ豆百科) |
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