ヘイホウ
并封は巫咸国の東にあり、そのかたちはイノコ(豚)のようで、前にも後ろにも首があり、黒い。(海外西経)--509 獣がいる。左右に首あり、名は屏蓬。(大荒西経)--741 絵・文とも『山海経』より |
珍獣が通った小学校では四年生の遠足に長瀞へ行くと決まっていて、秋の遠足シーズンになると必ず流れる噂があった。「長瀞に遠足に行くと、頭がふたつあるブタを見られる」というのだ。 実はこの当時、長瀞には博物館があってブタの二重胎児の標本を展示していたのだ。このブタは体がひとつで頭が一個半ある奇怪な姿をしており、育たずに死んだらしく小さな広口瓶の中でホルマリン漬けにされていた。博物館は長いこと遠足のコースになっていたし、このブタの噂は先輩から後輩へと連綿と語り継がれていた。 この博物館はそののち移転したと聞く。今はどこにあるのか、移転後もこの標本を展示しているかは定かではない。 |
長瀞の博物館で見た豚の標本。確かこんなんだったと思う。 |
それから十年後くらいだろうか、ブタの二重体児が産まれたというのがテレビで話題になったことがある。母豚が難産で苦しんでいるので、農場主が手をつっこんで引っ張り出したところ、顔がふたつある子豚だったそうだ。この子ブタも育たなかったと聞く。 どちら場合も『山海経』の挿し絵のように尻でくっついたタイプではなかったが、ブタには多重体児が生まれやすいのだろうか? 郭璞によれば、弩弦蛇(どげんだ)というものの類だという。頭が二股になったヘビのことである。ブタの多重体児がしばしば報告されるように、双頭のヘビもまた、何年かに一度は噂になる。つまり、郭璞は并封を奇形のブタだと思っていたのだろう。 |
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