アロエの子孫
エチオピアの民話
昔、あるところに仲の良い兄と妹がいた。
ふたりが歩いていると、愛の女神が気まぐれをおこし、兄の胸をその矢で射抜いた。
女神の矢に射抜かれた者は、身近にいる異性を好きになる。たちまち理性など吹っ飛んでしまい、兄は妹にいっしょに寝てほしいと頼んだ。
けれど妹は賢く、また冷静だった。
「ダメよ、いけないことだわ。そのかわり、いいことを教えてあげる」
といって、道ばたのアロエをとり、葉に裂け目をつくって兄に手渡した。
「さあ、これとなさい」
アロエの葉は良い娘がそうであるように、ねっとりと濡れて、柔らかかった。兄は妹のかわりにアロエを相手にして愛の行為を果たした。
事が終わるとふたりはその場から立ち去り、兄のほうはアロエのことなどすっかり忘れてしまった。けれど、賢い妹はきちんと覚えていた。
そうして、また近くを通った時に、
「兄さんに恋人がどうなっているか見に行きましょう」
といって、兄をアロエの葉のところまで連れて行った。
するとどうだろう。アロエの葉は兄の子を身ごもっているではないか。
時は流れ、九ヶ月目にはアロエが臨月をむかえた。兄妹がお産を助け、アロエは見事に子供を産み落とした。
ふたりは赤ん坊を抱いて家に帰った。その子は立派に成長し、美しい娘と結婚して子供を残した。そうしてアロエの血筋の者が増えてゆき、アロエの子孫と呼ばれるようになった。
[参考]
ロ・デュカ著 北宋社
『エロティシズムの歴史』
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アロエを見たことない人は少ないと思いますが、名前と実物が一致してない人もいるかもしれないので、こちらをどうぞ。
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参考>珍獣様の博物誌「アロエ」
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上のページにあるのはキダチアロエというやつで、葉が細くて役にたちそうにありませんが、アロエベラという大きくなる種類だったら果肉も厚くて具合が良いのかもしれません(わたくしには男根の持ちあわせがございませんので実験のほうはご容赦を)。
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人が人ならぬものと結婚するお話を異類求婚譚と申しまして、蛇、狐、アザラシ、熊などの動物、天女や妖精といった異界人、さらにはお椀のような非生物まで、さまざまなものと交わるお話が世界中にあります。相手が植物というのも珍しくはないんですけど、人に化けているわけでも意思が通じているわけでもないというのは、あまり聞かない例です。
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相手がバケモノとはいっても、たいていの場合そこには意思の疎通があるものです。ところが、ここではアロエが小道具のような扱いで、アロエ自体に意思があるようには見えません。そのくせ妊娠して子供まで産むっていうんですから、かなりシュールな話ではありませんか。
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ありがちなところで、本当は兄が妹を…というオチも当然考えつきますけれど、地元エチオピアの人たちがアロエの子孫だってことにして円満解決したのですから、アロエの子ってことにしておくのが平和でよろしいのかもしれません。
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