針を持つ獣たち

 
ゴウデイ
ゴウデイ
 ゴウデイ
ゴウデイ
 獣がいる、そのかたちは豚のようで白い毛、大きさは笄のようで毛の端は黒い、名はゴウデイ。(西山経一の巻)

 モウカイ
孟槐
 獣がいる、そのかたちカン(ヤマアラシまたはハリネズミ)のようでで赤い豪毛、その声は榴榴(未詳)のよう、名は孟槐。凶をふせぐのによい。(北山経一の巻)

 ハクゴウ
白豪(西山経二の巻)

 キョキ
キョキ
 獣はキョキが多く、そのはは彙のようで赤い毛、その声は豚のよう。(北山経二の巻)

 レイ
レイ 獣がいる、そのかたちは彙のようで、赤いことは丹の火のよう、その名はレイ。これが現れるとその国に疫病が大いにはやる。

文・絵とも『山海経』より

 
ハリネズミハリネズミ
(ハリネズミ科)
 名前はネズミだが、モグラに近い動物。背中の毛が針のようになっていて、危険がせまると体をまるめて身を守る。ヨーロッパから中国・朝鮮まで広く分布。
 という文字はハリネズミのことだ。また、ヤマアラシを漢字で豪猪と書くことからもわかるように、はヤマアラシを意味する文字である。ハリネズミもヤマアラシも体毛が針のようになっているので良く知られた動物だ。

 昔、日本の政治家が外国へ行って「軍備はハリネズミのように身を守るために……」というような意味のスピーチを英語でしようとしたらしい。ところが、その国にはハリネズミがいなかったので、ヤマアラシという言葉にかえて話した。たしかその政治家はタカ派と呼ばれた人なのだが、「ハリネズミとちがい、ヤマアラシは攻撃的な生き物である」と、その日のニュースでたちまちつっこまれていた。生半可な英語力でかっこをつけるからだという評価もあったが、英語力の問題というより、動物を知らなかったせいであろう。その政治家がダメなんじゃなく、つっこんだ人がスゴイのである。

 ヤマアラシの中にはかなり思い切った行動に出るものがいる。
 インドタテガミヤマアラシは、危険が迫ると最初のうちは尻尾をふって、針状の毛をかち合わせて敵をおどかす。
 それでも敵がひるまなかったら、今度は敵に尻を見せ、ものすごい勢いで尻から体当たりをくらわせる。ヤマアラシの体には後ろへむかって長い刺がはえているので、敵はかなりの深手を負う。豹や虎でさえその傷がもとで死ぬことがあるという。

 それにひきかえ、ハリネズミは種類によっては人に慣れるものもあり、最近では日本でもペットとして飼う人もいる。針もヤマアラシにくらべれば短く、それほど凶暴ではなさそうだ。

インドタテガミヤマアラシインドタテガミヤマアラシ
(ヤマアラシ科)
 中東アジア・インド・スリランカ・小アジアに棲息。背中の毛が太く長い針状で、これにぶすっとやられると豹や虎なども命かかわる。
 ちなみに、ヤマアラシには生まれたときから刺がある。誕生直後はまだやわらかく、成長とともに固くなるらしい。 

 
 『山海経』に見える針のある獣たちを、ヤマアラシかハリネズミか決めるのは難しいが、笄(こうがい)のような毛を持つというゴウデイは、針の長いヤマアラシではないかと思う。笄というのは一言で説明すると「かんざし」の一種のことだ。
 「赤い豪毛」とある孟槐はヤマアラシ、白豪も白いヤマアラシ。そのほかは毛についての記述もないことから、ハリネズミじゃないかと思うのだが、ヒントがあまりにも少なく、はっきりとは言えない。
 
 
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