リョウコ
獣がいる、そのかたちは牛のようで赤い尾、その頸(くび)にこぶがあり、かたちは句瞿(斗枡)のよう。その名は領胡。鳴くときは自分の名をよぶ。これを食べれば狂気が治る。(北山経三の巻)--172
『山海経』より
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コブウシ(ゼブー)
インドでは昔から飼われている家畜用の牛。背中にこぶがあり、首の下に肉ひだがある。耳が赤いのも特徴的だ。 |
これは、悩むまでもなく、現在インドで家畜として飼われているコブウシ(ゼブー)のことであろう。
コブウシには背中と首のさかいめにあたる部分に大きなこぶがある。『山海経箋疏』によれば、領胡の領は首のことであり、胡は首から胸にかけて垂れ下がった肉ひだのことだというが、これもコブウシの特徴と一致する。 残念ながらコブウシの尾は赤くはないが、大きくて垂れた耳は血管が透けてみえるせいかとても赤い。本来は「赤い耳」とすべきところが誤って書き記されたのではないだろうか?
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しかし、わからないのは鳴き声だ。 「鳴くときは自分の名をよぶ」というのは、言い方をかえれば「領胡と鳴くから領胡と呼ばれている」という意味である。『山海経』の時代に領胡をなんと発音していたのかはわからないが、現代北京語ではリンフー ling hu あまり牛らしくない音なのだ。 ただ、家畜の牛は、たいてい首に鈴をつけているものだ。鈴は、現代北京語でリン ling であり、領と同じ発音であることは見逃せない点であろう。 ◎コブウシの写真が見られるサイト
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時代がだいぶ下ってしまうが、マルコ・ポーロも『東方見聞録』で、コブウシを紹介している。
カマディという都市には他には見られない牡牛がいる。その体躯がとても巨大である。全身は雪のように純白色を呈し、毛が短く柔らかなのは、この地の気候がことに厳しいせいである。その角は短くて太くて尖っておらず、両肩の間に盛り上がり 2 パーム(40cm)以上の丸い瘤を持っている。とにかくこのウシは世にも美しい動物である。荷をつける際には駱駝のように膝を折り、駄し終わると立ち上がる。恐ろしく力が強いので荷物の運搬にはとても適している。(東洋文庫『東方見聞録』)カマディという都市が『山海経』の北山経の範囲と一致するかどうかわからないが、領胡と近い品種の牛である可能性はないだろうか。 |
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