従従 ジュウジュウ

 獣がいる、そのかたちは犬のようで、六本足、その名は従従。鳴くときは自分の名をよぶ。(東山経一の巻)--217
 

絵・文とも『山海経』より

 
 六本足の犬というので、最初は右の図のようなのを想像してみた。
 古代メソポタミアの守護精霊ウルマフルッルーは、ライオンの体に人間の上半身がくっついている。
 つまり、四本足+二本腕=六本足というわけだ。

 まあ、ライオンはネコ科なので、犬というのは無理がありそうだが、四つ足で肉食の獣という点では、犬も猫も共通している。

ウルマフルッルーウルマフルッルー
 ウルマフルッルーはライオン人間という意味。古代メソポタミアで知られていた守護精霊。帽子についているのは牛の角。
 
シロスジカミキリ  しかし、六本足といえば昆虫の特徴でもある。「従従」という鳴き声にも注目して、カミキリムシなどはどうだろうか?

 左はシロスジカミキリだが、この種に限らずカミキリムシは「鳴く」。といっても、獣のように声帯で音を出しているのではなく、首を動かすときに体とこすれ合って音を立てるのだ。残念ながら珍獣はカミキリムシの「鳴き声」を聞いたことがないのだが、「キイキイ」「ギイギイ」などと聞こえるということだ。

シロスジカミキリ
 日本最大のカミキリムシ。鉄砲虫と呼ばれる幼虫(芋虫)は、木の中で育ち、3年くらいで大人になる。日本・中国・朝鮮などに分布。
 
 カミキリムシは犬のような姿はしていないが、木材を食べるので、ものすごく立派な顎をもっている。名前の通り「噛み切り虫」なのである。
 犬もまた「噛む」動物なので、この虫の引き合いに出されても良さそうだ。
シロスジカミキリの顔シロスジカミキリの顔
 
 「噛む」ことに注目するなら、キリギリスの類も候補にあげたい。草むらにいて、ギーッチョンと鳴く、あれのことだ。ヤツらも噛む。

 右の写真は珍獣を噛んだ憎いクビキリギス(キリギリスの一種)である。この虫はまだ幼体だったので力も弱く、噛まれても痛くはなかったが、成虫に噛まれるとけっこう痛そうだ。

クビキリギスクビキリギス(キリギリス科)
 漢字で書くと首切りギス。噛みつくとなかなか放さず、引き剥がそうとすると首が取れることから。こいつの近縁種なら中国にもたくさんいる。
 
 
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