サンキ
獣がいる、そのかたちは犬のようで人面、よく物を投げ、人を見れば笑う。その名はサンキ。風のように走り、これが現れると天下に大風が吹く。(北山経一の巻)--142 絵・文とも『山海経』より
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本文には「犬のよう」とあり、挿し絵もやはり、犬のように四つ足で歩く生き物になっている。しかし、この生き物が「物を投げる」とすれば、犬よりももっと、手足の器用な生き物だろう。犬の手足では、物をつかむことすらできない。
また、人面であることや、人を見れば笑うという特徴もサルのものだ。サルは敵を威嚇するときに、イーッと歯をむいて見せる。この仕草が笑っているように見えるのだ。 サルだとしたら、テナガザルのように樹上生活に特化したものではなく、アカゲザルのようなマカク類が当てはまるような気がする。樹上生活をするテナガザルは犬のように這って歩くことは少ないが、マカク類なら四つ足で地上を歩き回る。 |
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また、ヒヒと呼ばれる猿の仲間も犬に似ている。ヒヒは主にアフリカに棲息するサルだが、マントヒヒはアラビア半島にもいるし、一説によればかつてはもっと広範囲に棲んでいた可能性もあるという。
マントヒヒは鼻面が長く、どちらかといえば「犬顔のサル」なのだが、珍しいサルの特徴が人づてに伝わるうちに、「人面で犬のようなサル」に変化したのかもしれない。 |
マントヒヒ
エチオピアからアラビア半島にかけての岩山に棲息し、草や虫などを食べる。サルにしては鼻面が長く、どちらかといえば犬顔。英名のBaboonは犬に似た鳴き声からきたものとか。 |
サンキの特徴がショウジョウのものと一致するのも無視できない。物を投げること、人を見て笑うこと、さらに風のように走るという点だ。このことからも、サンキの正体はサルの一種と考えられる。
良くわからないのは、サンキやショウジョウが疾走する動物だと思われている点だ。もし正体がサルだとすれば、たしかにサルは身軽な生き物かもしれないが、走るのが速いというのは少しちがう気がするのだが。 |
「物を投げる」というのが、実際に投げるというのではなく、そういうふうに見える動作を描写しているとすれば、サル以外にも候補はあがる。 上野動物園にいるマレーグマは、後足で立ち上がって、片手を高くあげて、 おいでおいでをするように動かす動作がうまい。どうやら、客が餌を投げ与える動作をまねしているらしい。それを見て客が喜んで、また餌を投げるので自然に覚えてしまったそうだ。他の種類の熊でも条件がそろえばこのくらいの芸は覚えるだろう。(注意:たいていの動物園では動物に餌をやるのは禁止なので、実験はやめといてほしい) しかし野生の熊がこんな芸をするとは思えない。熊だとすれば飼い慣らされたものだろうか。 |
ギン
獣がいる、そのかたちは貉(むじな)のようで人の目、その名はギン。(中山経四の巻)--298
文は『山海経』より
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狢というのはタヌキ・アナグマ・ハクビシンといった生き物のことだ。タヌキはイヌ科、アナグマはイタチ科、ハクビシンはジャコウネコ科と、それぞれ別の科の生き物だが、顔つきや体の色などが良く似ていて、昔からごっちゃにされていた。
『山海経』の本文には「狢のようで人の目」としかないので、これではなんのことか良くわからないが、人面犬の一種として取り上げてみた。 |
カン
獣がいる、そのかたちは狸のようで、一つの目で三つの尾、名は讙(カン)。いろいろなものの物まねができる。これは凶をふせぐのによく、これを服用すると黄疸をいやす。(西山経三の巻)--102
絵・文とも『山海経』より
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狸という文字は、中国では野生のネコ科動物を意味していると前に書いた。挿し絵も猫っぽく描かれているし、犬の怪に取り上げるのはどうかとも思ったが「物まねをする」という特徴に注目して、あえてサンキやショウジョウの仲間としてとりあげてみた。ショウジョウの伝説に、禹王の名前や悩みを言い当てたというのがあるが、これは「ものまねをする」という特徴に通じないだろうか?
日本の妖怪にさとりというのがいる。 さとりは全身が黒い毛に覆われたサルのような姿をしており、よく後足で立って歩くという。飛騨や美濃の山奥に住み、ときおり人里に現れては、人が考えていることを「見抜く」。しかも、それをいちいち口に出すのだ。禹王の前にあらわれたショウジョウも、さとりの怪と同じような能力を持っていたのだろう。口に出したことを真似るのではないから、いわゆる「ものまね」とは少しちがうが、心の動きを鏡のように写しだして見せるのだとすれば、これも一種のものまねと言えそうだ。 そう考えると、讙の「ひとつ目」という特徴は、ものを見抜く強い力を表現しているように思えるのだが。
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