その他の蛇たち |
チョウダ
蛇がいる。名は長蛇。尾はいのこの豪毛のようで、その声は拍子木を打つよう。(北山経一の巻)--138
絵・文とも『山海経』より
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トカゲなら体に突起のある種類がたくさんいるので豚のような毛が生えているともいえるかもしれないが、蛇となると難問だ。ひとまず毛は棚にあげて、挿し絵についている角状の突起をヒントに似たものを探してみよう。 |
右の図は、古代エジプトの象形文字で「f」の音を表す文字である。 これはクサリヘビ科のツノヨコバイクサリヘビがモデルだそうで、その名のとおり頭に角のような突起のある蛇だ。
ギリシアの歴史家ヘロドトスもこの蛇について「テバイの近辺には聖なる蛇がいるが、人間に無害で、形は小さく、頭の先に2本の角を備えており、これが死ぬとゼウス(アメン)の廟に葬っている。つまりこの神の神獣であると伝えられているからだ」と書き記している。もっとも、エジプトにいるツノヨコバイクサリヘビは猛毒を持っているので人に無害というのは勘違いだろう。 ちなみに下の写真はアフリカツノクサリヘビの写真。たぶんツノヨコバイクサリヘビの仲間だと思う。 |
アフリカツノクサリヘビ 藪塚(群馬)のヘビセンターで撮影 |
耳のあるウナギ(『本草図説』より) | 蛇ではないが、日本ではこんなものが発見されたことがある。これは江戸時代の博物学者
高木春山が記録した耳のあるウナギで、今でいう静岡県の三島でとれたものだという。
静岡といえばウナギの産地。三島明神にはウナギを家来にしている神様が祭られているという。 |
しかし、長蛇の耳は、「いのこの豪毛」から連想してつけたのだろうし、この部分から正体をあてるのは無理であろう。 |
キンチュウ
琴蟲 蟲がいる。獣の首に蛇の体。名は琴蟲。(大荒北経)
蟲という文字は狭い意味では昆虫や蜘蛛のような生き物のことだが、昔は爬虫類や小動物も蟲という文字で表すことがあった。
この説明だけではなんという生き物なのかはわからないが、蛇なのに毛の生えた長蛇と良い取り合わせになりそう?
ゼンダ
赤い蛇がいる。木の上に住み、名は蠕蛇。木食する。(海内経)
木食というのは、五穀をたって木の実だけを食べ続ける修行のことだが、ここではたぶん植物質のものばかりを食べる蛇だと言いたいのだろう。蛇はふつう肉食である。それが木の実を食べるとしたらかなりの珍種だ。
もし「草食の蛇なら聞いたことがあるぞ」という方、いらっしゃいましたらご一報ください。ヒダ
飛蛇 (中山経十二の巻)
『山海経』本文には解説はないが「霧にのって飛ぶ」と訳者の注がある。
種名を忘れてしまったのが悔しいのだが、たしか東南アジアのボルネオ島には空を飛ぶ蛇が実在する。飛ぶといっても、隣の木に飛び移るという程度だが、それでも手足のない蛇がしゅるっと空を横切る姿には誰でも驚くはずである。イクダ
育蛇 赤蛇がいる。名は育蛇。(大荒南経)白蛇・白い蛇 (西山経二の巻・北山経三の巻・中山経十二の巻)
本来は色のついた生き物がなにかのきっかけで白くなって生まれる奇形をアルビノというが、蛇にももちろんアルビノはいる。瞳にも色素がないので目が赤く、血液の赤が皮膚を透けて見えるので白というより黄金色にも見える。
日本にはアオダイショウのアルビノが多く生まれる地域があり、「岩国の白蛇」といって天然記念物にも指定されている。実験用のハツカネズミやフェレットのように、人間が人工的にアルビノの個体をかけあわせて白色変異を固定させることはできるが、自然の状態で白い個体ばかり生まれるのは珍しい。蛇の体色は身を守るための保護色だから、白く生まれた蛇はよく目立ち、敵にねらわれやすい。たまたま生まれても鳥などの外敵に発見されて食べられてしまう。そのため、ひとつの地域に集中して白蛇が生まれるのは珍しい。
岩国で多く白蛇が見られるのは、その地域にアオダイショウの天敵になる生き物が少ないことや、他の地域のアオダイショウと出会いにくく、近い血筋の蛇とばかり交わるからではないかと考えられる。『山海経』で白蛇が見られると言う地域も、岩国のような場所なのだろうか。
それとも本当に白っぽい体色の蛇がいるのかもしれない。または、何か別の白い生き物を蛇だと言っているのかもしれないが。
シロヘビ
(アオダイショウのアルビノ)
藪塚のヘビセンターで撮影このほかに、竜身の神々や、燭陰や相柳など、蛇の怪にいれてもよさそうなものもあるが、それは別の項目で扱おうと思う。
黒い蛇 (海内経)黄蛇 (大荒北経)
ミズチ
蛟 (中山経十一の巻に4回・海内西経)セキダ
積蛇 (西山経三の巻)シュウダ
衆蛇 (西山経四の巻)マムシ
蝮虫 (南山経一の巻・二の巻・三の巻・海内西経)蛇 (海内西経)
クウダツ
空奪 (中山経九の巻)
訳者の注によれば蛇の抜け殻のことだそうな。
日本では蛇の抜け殻を財布にいれておくとお金が貯まるなどというが、中国ではどうなのだろう。漢方の材料にでもなるだろうか。
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