くだん


 
 
 件(くだん)というのは、人面牛身で未来を予見する謎生物のこと。その起源はわりと新しく、明治時代の学者の冗談から誕生したのだと言われているのですが、ある日けむしさんという読者の方から「ほんとに明治より前に 件 の伝説はないのでしょうか」というメールをもらったのが話のはじまりなのです。
 このとき珍獣は「すくなくとも『山海経』には 件 という名前の生き物は出てこないけれど、人面で牛身の神様の像がメソポタミアの遺跡から出てくるような。ところで、こういうお話は他に詳しい人もいるかもなので、掲示板へどうぞ」とお返事したような気がいたすのです。珍獣にそそのかされたけむしさんは、後日掲示板にて問題を提起。以下はそのログなのです。


 
[71] 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか?
投稿者:けむし投稿日:2000/08/30(Wed) 11:51:30   <HOME>

こんにちは、ちんじゅう様。
皆さん、はじめまして。
今から13年程前になりますが、私は、ふとしたきっかけで、ある友人にかつがれて、「北海道には、くだん、という妖怪がいる。」という話を聞かされました。
 それ以来、「くだん(件)」なるものが、なんとなく気になっているのですが、「あれは妖怪ではなく、(たぶん漢学者の)冗談だ。」という結論にいたって、自分のHPに書いたところ、「いや、東北では割と一般的な伝承だ。」という突っ込みをいただきました。
 「件」は、小松左京などの小説や、漢文の参考書などにも登場します。でも、今一つ出自がわかりません。あれって、なんなんでしょう?
 形は、「神農」やミノタウルスみたいなやつで、かなり嫌なやつらしいです。
 

Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか?
投稿者:ちんじゅう - 2000/08/30(Wed) 12:24:13

おお、来て下さったのですね。メールではどうもなのです。

件(くだん)というと、
「顔が人、体が牛で、未来のことを予見し、よく当たる。
 なので、"前に言った通り" ということを、件の通りという」
ってやつですわよねえ。
たしかに、「人・牛」で「件」という文字になるので、
誰かが作ったダジャレという説はかなり濃厚と思うのですが...

ただ「未来を予見するイヤな奴の伝説」と捉えると話は別のような。
日本の昔話に悟りの妖怪ってのが出てきますが、人が考えていることを読みとって、
「おまえは今『嫌な奴が来た』と思っているだろう」
「ほう『はやくどっかに行ってくれないかな』と思っているな」
というふうにしゃべり続けるので、とてもいや〜な気分になる。

もしや、こういう「悟り」の未来予知版みたいなのがまずあって、
その伝説に「人・牛」で「件」になる伝説がくっついたってことはないのかしら、
などと、今ふと思いついたのです。

それはともかく、
たしか、件好きの人がいたと思うのですが、
何か情報ありますか?>ひろこさん(って名指しじゃん)



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか?
投稿者:ひろこ - 2000/08/30(Wed) 17:41:15

え、お呼びですかっ!

「件」
人の子として生まれる、小松型(仮)と、
牛の子として生まれる、中国には居るんだろう型(仮)が居ます。
ここまでが情報。

で、私の意見としては…(ダイジェスト版)
小松型は、単に情報分析能力に優れた、
皮膚角化症(いいかげん)の人という気がします。
「件」=「九段」=「靖国神社」ですから。

中国には居るんだろう型は、
形の違う牛の子が産まれた話とか、
うちのべこっこは頭が良い、足し算が出来るんだ、とか、
そう言う話を拡げまくった物かも知れません。

いずれにせよ、面白ければ「あり」です。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/08/31(Thu) 07:41:52

ぬおお、なんだか話がなぞめきすぎててわけわかんなくてナイスですわ>ひろこさま
 

過去にどっかで件の話をしていたような気がしたので、
それならきっと骨月どののところじゃろうと思って検索してみたところ、
このような本があるらしいと判明いたしましたわよ。

・とりみき「事件の地平線」
http://www.sfwj.or.jp/library/1998/04/199804c.html
これに、件のルーツを探るお話が載っているとかいないとか。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:けむし - 2000/08/31(Thu) 23:34:45

 ちんじゅう様、ひろこさん、レスありがとう。

>ちんじゅう様
 私は、「とり」氏の本は結構持っていますが、「クダンのルーツ」について読んだ覚えはないので、あとで、本置き場のダンボール箱をひっくり返したり、書店を覗いたりしてみます。
 ところで、冗談に、「予言する嫌な奴」伝説が加わった、という、ちんじゅう説は、もっともらしくて素敵ですね。「おそれいりやの鬼子母神」みたいに、普段、作者を意識しない駄洒落はこの国には多いわけですが、それを誰かが、伝説仕立てにした、ということでしょうかね。
 しばらく前に、私の質問にDMで、「メソポタミア起源か?」というお話を、これもちんじゅう様より頂きましたが、そういう「めそ」とか、ミノタウルスとか、中国の妖怪などを混ぜた奴(もしかして小松の高校の先生?)がいるのかもしれませんね。

 私の読んだ漢文の本には、明治以降の契約書の書式の最後に、「よって件の如し」とあることに引っ掛けて、クダンと言う妖怪がいて、確実に実現する予言をする、という冗談をいう「先生(誰かは不明だが、筆者は東大卒)」がいた、と書かれていました。
 確かに、「よって件の如し」は、意味不明な条文で、そういう冗談の生まれる元になっていても不思議はないように思っていました。

 ところが、最初の投稿に書いたように、「件伝説は遠野以北には口伝として実在する。」という方もいるようなのです。もしかして、東北人は騙されやすいということでしょうか?・・・あッ、石は投げないで下さい。

 そのメールをくれた方は、近・現代文学の分野でとても知識のある方で、ウソなど言いそうにない人なのです。「柳田に言及がある」との指摘もあったのですが、まだ、調べられずにいます。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:けむし - 2000/09/01(Fri) 00:10:05 <HOME>

>今日は、ひろこさん。レスありがとうございました。

 中国系クダンという奴は、やっぱり形態の類似してる奴と言うことでしょうか?
 今、手許にありませんが、「大漢和事典」によると、「件」の字は甲骨文字になく、字の来意は不明だ、とのことだったと思います。うろ覚えで申し訳ありませんが、同字典によれば、康煕字典に言及がない、とのことだったはずです。日本の字典では多く「音」から、となっていると思いますが、私は、「うし」と、「the point」では、いくらなんでも関係なさすぎ、という気がしています。
 中国の字の「来意不明」は多く、刑罰に由来する字だ、という講義を昔聞きかじったことがありますが、「件」もなんかイワレがありそうな気がしています。奇妙な字ですよね。
 「あり」ルールなら、私は、この字(件)は、妖怪クダン(オニ、かもしれませんね)が渡ると共に日本から中国に逆輸入された、という説を立てますが…。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか?
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/01(Fri) 07:25:34

前に上げた とりみき の本は、珍獣本人は読んでないので、
実際に内容がどうかはちょっとわからないんですけどねえ。

ところで「東北の伝承にある」ですが、
昔話や伝説として今に伝わっていたとしても、それが古いかどうかは別問題ですわ。
書かれたものならある程度までは時代の検証もできましょうが、
口伝えだとすれば、千年前からあったかもしれないし、1ヶ月前にできたのかも知れない。

柳田国男が記録した遠野の伝説たちは、柳田の時代にはあったでしょうが、
いつから始まったものかは正確にはわかんないと思うのです。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/01(Fri) 07:43:04

ところで、珍獣は手持ちの本をぴらぴらっとめくってみましたら、
件の出現を記録した瓦版の絵を発見しましたわ。
それには人面牛の絵が描いてあり、
「天保七年に丹後の国」に現れた件という獣だ書かれてます。
天保7年というと1837年でしょうかしら。
明治からすこしさかのぼりましたわね。

が、しかし。この情報も鵜呑みにしてはなりませぬ。
この瓦版が天保7年に出たものかどうかわからないからなのね。

   2000年9月1日に珍獣様はこう言った。
   「ぬりかべは縄文時代から知られた妖怪である」

ある時こんな記録が発見されたとして、
確かに珍獣は2000年ごろの人だと証明されたとしますわね。
これでわかるのは、ぬりかべという妖怪の伝説が
2000年にはあったということで、
縄文時代からってことじゃないのよね。
珍獣はウソか冗談を言ってるかもしれないし。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/01(Fri) 08:16:29

メールで書いた「メソポタミアにも件のようなバケモノがいる」というのは、
この際ちょっと忘れてください。
似た姿の獣の像が出土するという程度で、まったく無関係と思います。
 

さて、伝説が日々うまれくるものだっていうことをふまえた上で、
もう一度東北の伝承説を考えてみるのです。

人面牛とはまったく無関係に、
未来を予知する人や動物の伝説は世界中どこの国にもあると思うのですわ。
件の通り... あ、いや、いくつか前の返信で書いたとおり、
日本には「悟りの妖怪」ってのがいまして、こやつもさりげなく未来予知系です。
人がこれから何をしようとしてるのか、
実際にする前に言い当てるバケモノなので(心を読んでいるだけとも言えますが)。
いや、悟りの妖怪でなくともいいんです。
裏の畑でポチが鳴くので、掘ってみたら宝が出た。
ポチは宝が出るということを予知できたのだと評判になった、とか。

とにかく、未来を予知する不思議な妖怪の話がまずあったとします。
その妖怪は、これといってインパクトのある名前や姿を持っていなくて、
人により、地方により、適当な名前で呼ばれていたとしましょう。

そうしたある日、
「クダンと言う妖怪がいて、確実に実現する予言をする、という冗談をいう先生」が現れて、
面白がった学生がその話を自分の田舎へ持ち帰る。
それを聞いたお婆ちゃんたちは、
「エライ先生のいうことだしねえ、ならこの村に伝わる妖怪も、クダンの仲間かもしれないねえ」
などと納得し、昔話をするときに「その妖怪の名前はクダン」と付け加え...

誰かが故意に作らなくても、自然と合体しそうな気がするんですよ、この話。
名前がクダンになれば、姿が人面牛になるのはあっという間でせう。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/01(Fri) 08:19:26

と、いうわけで、何がいいたいかと言いますと、
柳田の時代に東北には「クダン」という未来予知系の妖怪伝説があったからといって、
漢学者の冗談説を否定することにはならんだろ、ということですの。

でも、これは単なる妄想ですわ。
なんせ珍獣の館は珍獣様の妄想のみでなりたっておりますので、ほほほ。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ひろこ - 2000/09/01(Fri) 08:46:05

小松の「それ」

1,有る家に、病気の人が居た。
証言(沢山の包帯、他人が見てはいけない等)により、異形であるとの噂。
2,その人が、敗戦を予告した。

敗戦は、情報を知りうる立場の人が、それを分析すれば予知可能であり、
沢山の人が予知=予告していたのです。

でここからが、肉付け編。
実は、うちの近所に「神戸」の「造船業者」の広大な別荘があり、
そこに昔「角のある人」が住んでいた、と言う噂があるのです。
小松の話と繋がってしまうのです、ぴったりと。

すなわち、情報を知りうる立場にある異形の人=
「件」みたいやんかと言う流れは、全く自然で、
ここに伝説が(小説が)一つ生まれたのです。

因みに、小説の題名「くだんのはは」と言うのは、
「件の母」と「九段の母」との二重の意味を持ちます。
九段の母というのは、靖国神社に息子が居る、
すなわち、戦争で子供を失ったと言う意味です。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/01(Fri) 13:21:55

 明治42年6月21日の名古屋新聞に、こんな記事があるそうな。

「人面獣心ということはあるが、これは人面牛体だ。今より10年前、肥前の国 五島の奧島のある百姓屋の飼い牛が生んだもので、今は剥製になって長崎市の八尋博物館に陳列されている。なんでも生後31日目に『明治37年には日本は露西亜と戦争をする』といって死んだのだそうな。件(人・牛)だけに預言が的中している。それで本当に依って件の如しだ」

 少なくともこの新聞が出た明治42年ごろには「件」という人面牛の伝説はあったようでござるね、にんにん。
 ひろこさんの話と同じで戦争を予知してるってあたりが面白いよね。
 なんで戦争? やはり靖国神社とのかかわりなのかしら。

 ちなみに、八尋博物館は長崎に本当にあった私設の博物館で、今は閉館され、展示品は散逸してどれも残っていないとか。
(柏書房『明治妖怪新聞』より)



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:けむし - 2000/09/01(Fri) 14:33:27 <HOME>

 うーん、天保年間ですか…。>ちんじゅう様。
 いったん読んで、忘れてるのかもしれませんが、私の記憶では、そんな話聞いたことありませんでした。さすがちんじゅう様、人ではありませんね。只者で無いだけでなく。
 その話が収録されてる本って、宮本骸骨あたりの大正ギャグ新聞ではないんですよね?

 いやいや、確かにおっしゃるごとく、風説(時にデマ)と伝説を区別することは、あまり重要でない上、困難なのかもしれません。と、すれば成立年代など、この際あまり重要ではないとも言えるでしょう。しかし、私はどちらかというと伝説を真に受けるタイプの生き物で、風説も面白ければ真に受けてしまうという習性があるんです。あえて、真に受けるとすると、わずか100から200年前にクダンが出現した、というのは、太古、牛頭の妖怪がいた、というのよりずっと迫力がありますね。
 つじじゅんの小説(今手元に無いので正確でありませんが)によれば、クダンは確か、1000年に一度、世に戦乱の起こるとき現れる、という話だったと思います。前回現れたのが、天保にしろ、明治にしろ、あるいは小松/ひろこ説の昭和?にしろ、次に現れるのは、ずいぶん先になりそうですね。

 情報ありがとうございました。私ももう少し研究を続けて、なにか発見したらまたお邪魔します。あした休みだし。ところで、私のサイトにも実は「ゲストブック」を用意してます。ちんじゅう様に言われて見なおしてみたところ、あるにはあるんですが、行けるようになってませんでした。(ってそれじゃ無いのと同じじゃん>私)。今はいったん上部のページにいかないとは入れません。近日中に直そうと心に誓っています。御教示ありがとうございました。
 
 

>ひろこ様
 なるほど、あれってそう言うことですか。
 とするとますます、小松左京の執筆当時、「件」という生き物の伝説なり冗談なりを、彼の周りでは皆が知ってた可能性が出てくるわけですよね。
 それにしても、近所の建物を指して「あそこがそうだよ」といわれたら、怖いですよね。ちょっとびびりました。いや、じっくり考えると、だんだん、ほんとに怖くなってきました。
 昔、ある民族主義者の青年から、「俺はクダンのことは知っているが、話すのは不吉だから、おまえには話したくない。」といわれたことを思い出しました。3年間の付き合いの間、彼はついに何も教えてくれませんでしたが、妖怪の話は「真面目な右」関係の人は嫌いなんだろうと決めてかかって、彼がクダンのことを口にしたがらなかったということは忘れていました。もしかすると彼は、ひろこさんと同じ地方の出身だったのかもしれないなあ、と、今、思い返しています。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/01(Fri) 15:40:20

柏書房『明治妖怪新聞』は、珍獣も確かめたわけじゃないのでわかりませんが、
ギャグとして創作したものではなさそうです。

今でもたまに、ドコソコで謎の生き物発見、という記事が新聞に載るように、
昔の新聞に乗ってたそういう話を集めた本のようです。

ただし「剥製があった」というあたりは
当時の新聞がでっち上げてる可能性はあると思います。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ひろこ - 2000/09/01(Fri) 16:35:49

宮武外骨の報じる物には、
かなりの真実、事実が含まれているが、
今で言うところのワイドショウネタとか、
私は宇宙人を見た、とか、
そう言う話と一緒くただから、
全てが眉唾だと思われているらしいです。

だとすると…。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 投稿者:きむら いずみ - 2000/09/02(Sat) 09:01:54 <HOME>
かなり前ですが少年ジャンプの「ぬ〜べ〜」でも扱ってましたな。件。

Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:けむし - 2000/09/03(Sun) 14:24:15 <HOME>

 ええっ、ぬーベーでですか?どんな話しだったんでしょうね。 
漫画といえば、「とり」サンの漫画は、私は買ったはずだ、と確信してるのですが、無くしてしまいました。また買うのもしゃくだし・・・。

 
 荒俣宏の「妖奇の国ニッポン」という本の中(文庫版P20)に、天保2年、日本橋に出現したとされる「人面犬」を、平田篤胤が、目撃して絵にしている、という意味の記述が、一行だけですが、あります。(「おとぎ草子」収録ということです。)この話は割と有名で、私は他の書籍でも見た記憶があります。犬(けん)は、件に通じるし、ビジュアル的にはこれもクダンの一種ともいえるかと思います。ちんじゅう様の情報に「天保」の言葉があったこと(出典の出版時期についてはふれておられませんが)を頼みに、古い文献を探そうとしてみましたが、残念ながら、私の住んでいる地区の図書館では、平田関係の資料は発見できませんでした。
 もしあの時期に、牛人クダンが出現したなら、平田か、その弟子(かね胤)のコレクションに記述があるだろうとあたりをつけたんですが、まあ、時間をかけて、情報を集めるしかなさそうですね。明治以降にはやった冗談ないし風説なら、骸骨か井上円了に言及があってもよさそうなもんですが(なんとなく、あったような気もするんですが)それも確認できませんでした。
 
 それと、これも直接クダンではないんですが、漢文の素養のある文学者、中島敦に「牛人」という中国を舞台にした気味の悪い小説があります。中島も東大で学んだ勉強家で、明治あたりの漢学者の冗談説の一論拠になると思います。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/03(Sun) 18:43:17

先に書いた瓦版も『明治妖怪新聞』に資料として載ってるんですが、
これはあきらかに人面牛の絵になってます。
ただ、瓦版がいつ出たものなのかは明記されてないんですよ。
記事は確かに天保七年十二月に丹後の国... と書かれているのですが。

同じ本の巻末に「協力者・協力団体」として

>徳川林政史研究所……『件という獣』

とあります(『』の中は章タイトル)。
どうも、問題の瓦版はこの研究所の資料なんじゃないかと思うのですが、
どこのどういう施設なのかはわかりません。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/04(Mon) 16:00:50

問題の瓦版はこれですことよ。ちとでかいけど、このまま貼ってみますわ。

件の瓦版

 このとおり人面牛です(ありゃ、この絵、尻尾が馬になってる?)。
 さらさらっと書かれた記事には、「天保七年十二月丹後の国」の他に「宝永二年」にもこの獣が現れたと書かれているようです。

[追記]
 その後、珍獣様は中途半端にスキルアップして、昔の人が書いたぐにょぐにょっとした文字を中途半端に解読できるようになった(レベルアップのファンファーレ)。

 そこであらためて上の絵をよくよく見たら、後半の読みにくい部分にも、ダジャレ説が書いてあるんです。件という字は人偏に牛と書きくだんと読ませる。霊なる獣なれば證文の終わりにも「如件」と…

 上の瓦版は天保のものらしいので(本にはハッキリ書かれていない)、件のダジャレ説は意外にも古くて、江戸時代からあったのかもしれません。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:けむし - 2000/09/06(Wed) 01:02:19 <HOME>

 これは、ちょっとすごすぎですね。私は六割かた、「明治以降の冗談をまに受けた純朴な東北人説」に傾いていたんですが、考え直しました。
 ちなみに後の三割は、ちんじゅう様の説の1つ、「在来伝説と冗談の融合」と、ひろこ説の発展系として「件の伝説・冗談を怪談に変貌させる実話があった。」説あたりが真相なんだろうか、と思っていました。
 でも、これを見ると、俄然、くだんなる妖怪は古来日本いたのだ,と言う気がしますね。しかも、豊作を予言したということであれば、中国の「神農」との関係も疑われるように思います。
 と、いうそばから、いや、やっぱりこれは冗談なのでは…という気もしてきます。いやいややっぱり…。クダンって、ホントに、ただの冗談にしては出来すぎてるんですよね。
 謎が謎呼ぶクダンですが、色々な情報ありがとうございました。



Re: 「件」て、伝説でしょうか?冗談でしょうか? 
投稿者:ちんじゅう - 2000/09/06(Wed) 01:38:14

こういった瓦版っていつごろまで出てたんでしょう。
維新と同時に突然廃れるとも思えないし、
明治になってから出たものってことはないのかしら。
珍獣のほうではまだ明治の冗談説に未練が少々(笑)

中国わたりの伝説って可能性も捨てきれないんですよねえ。
たしかに人面で獣体の神様って古代中国にはたくさんいますし。
ただ、人・牛で件だなんて、面白い由来がありながら、
そういう名前の神様やバケモノが中国の書物にないということは、
(あったら誰かが必ず中国起源だと言ってることでしょう)
「件(くだん)」という名前は、日本で出来た可能性ありですわ。
このくらいの冗談は、明治の偉い先生じゃなくても思いつきそうだし。

瓦版がいつ出たものかわかれば、
そのころまでさかのぼれるんですが...



 
 掲示板での話はここでおわりなのです。結論は出ませんでした。でも、こんな話に結論なんか出るわっけがないのでこれでいいのね。

 ところで、珍獣はついさっき、とんでもないことを思い出したのです。たしかに『山海経』の中には 件 という名前の生き物は出てこないけれど、件 のモデルになりそうな生き物がちゃんといるのです。しかもとてつもなく有名なやつがっ。
 その生き物は 猩猩 なのです。えー、猩猩はサルのような生き物で、件 とはちっとも似てないじゃないっ?!
 ところがなのよ。『山海経』の南山経に出てくる 猩猩 について、後の人がこういうことを書いているのよ。目んたまひんむいてよく読むのよ。

 (猩猩は禺のようというが)禺とはサルに似てもっと大きく、目が赤くて尾が長い。いまでは江南の山の中に多く棲息する。昔の研究者は猩猩が禺に似た生き物だというのが納得できず、牛という字に書き換え、挿し絵も牛の形にしたり……以下省略
 これは、集英社の全釈漢文大系『山海経・列仙伝』から、一部わかりやすく描き直して引用したのですが、この本は『山海経箋疏』というテキストをもとにしているらしいので、きっと『山海経箋疏』にそう書いてあるんだと思うんです(すまんね、わかりにくくて。わたくしにもよくわかんないのよ)。 『山海経箋疏』っていうのは1800年頃の人がまとめたものなので、上の文章で言ってる「いま」は1800年ころのことなのね。
[追記]
 その後、上に水色の文字で引用した注釈部分は、郭璞が書いたものらしいことがわかったような気がします。気がするのですがやっぱりよくわかりません。『箋疏』の編者ではなく、郭璞の注だとしたら、上の文章で言ってる「いま」は西暦 300年ころのことなのよ。
 猩猩といえば、オランウータンのような、サルの仲間だとばかり思っていたけれど、大昔の人は牛だっていうわけよ。しかも、この猩猩という生き物は、『山海経』の海内経という部分に、人のような顔をしていると書かれているのです。ということは、猩猩が人面の牛だと思われてた時代もあったということなのよね。

 さらに、山海経動物記の猩猩のページにも書いたけれど、猩猩は人の考えてることを読んだり、どこへ行ってどうすれば飢饉を乗り切れる……なんてことを教える不思議な能力を持つとも言われているのです。そういえば、天保七年の瓦版では 件 が豊作を予見すると書かれてる……?!
 人面で牛身の獣に、件 というふざけた名前を与えたのはおそらく日本人だろうけれど、件 の祖先は中国にもちゃんといる、そんな気がするこの頃なのです。 

 なお、クダンについて、牛のバケモノについては掲示板でさらに話が進み、とりあえずログをまとめてあるので以下もどうぞ(かなり長いです)。

件の件についてなのです/アツユと不老不死の秘密

 
 
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