テイ
テイ
テイ
 獣がいる、そのかたちは虎のようで牛の尾、その声は犬がほえるよう、その名はテイ。これは人食いである。(南山経二の巻)--017
絵・文とも『山海経』より

 
 ウシの尾は先だけが房毛になっている。ネコ科の動物で「牛の尾」を持っているのは、おそらくライオンだけである。
 それにしても、この挿し絵、トラというよりはまるで猿のよう。ちょっと毛深いけど、トラ模様のボディーペインティングをした人の姿にも見える。

 人食い牛の怪では、ウシは人間の獣性を象徴する生き物にふさわしいと書いた。では、トラはどうだろうか?
 トラはあくまで野生の獣で、人の意のままになる生き物ではない。人里離れた場所で飢えたトラに出会えば生きて帰れることのほうが稀だった。
 ウシが人の心にひそむ獣性の象徴ならば、人食いトラは洪水や地震といった、人の力ではままらない自然の脅威を象徴するのにふさわしい。
 ウシとトラの合体獣は、性質の違うふたつの恐怖の合体でもあると思う。


 
  バフク
馬腹
 獣がいる、その名は馬腹、そのかたちは人面のようで虎のからだ、その声は嬰児のよう。これは人食いである。(中山経二の巻)--289
絵・文とも『山海経』より
馬腹

 
 そしてこちらは人面のトラ。
 挿し絵では尾が房毛になっていて「牛の尾」である。
 ウシのよう・トラのよう・人のようで、とても恐いもの……そうくると連想するのはオニだ。ここで取り上げたいのは中国の鬼(幽霊・亡者)ではなく、日本で節分に追い払うオニである。

 日本でオニと呼ばれている化け物は、人の姿でウシの角があり、トラ皮の腰巻きをつけている。これまで見てきたとおり、『山海経』にはウシ・トラの合体獣がずいぶんいる。
 もしかすると、日本のオニのスタイルは、『山海経』の時代に生まれつつあったのではないかと思うのだ。

 日本のオニがあの姿をしているのは、インド神話の破壊神シヴァの影響だと言われている。シヴァはトラ皮の腰巻を身につけウシを乗り物にしている。生首をつなぎあわせた輪飾りを身につけていたり、墓場で死のダンスを踊るともいわれている。ウシとトラ、そして人食いというモチーフがすっかりそろっているわけだ。

オニ
 日本の鬼は、角をもち、トラ皮の腰巻きをつけて、金棒をふりまわす。
 ヒンズー教の神々は、仏教にとりこまれ、チベット・中国・日本へとやってきた。シヴァ神がいつごろからウシやトラと関係しているのかわからないので、どちらがどう影響したと断定はできないが、『山海経』に見えるウシ・トラの獣たちからシヴァ神とオニのシルエットが見えてはこないだろうか?

 
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