トビウオは魚のくせに翼があるように見えるので、それだけで化け物くさい。そのせいか似たような魚の記述がたくさんある。 |
絵・文とも『山海経』より
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ブンヨウ
ここには文あるヨウ魚が多い。かたちは鯉のようで魚の体、鳥の翼、蒼い文があって白い首、赤い喙(くちさき)、常に西海にでかけ、また東海に遊び、夜に飛ぶ。その声は鸞鷄(鳳凰の仲間)のよう。甘酸っぱい味で、食べれば発狂をいやす。これが現れると天下はおおいにみのる。(西山経三の巻) |
トビウオ
ここには飛魚が多い。そのかたちは鮒のようで、食べれば痔や下痢をいやす。(中山経一の巻) 水中に飛魚が多い。そのかたちは豚のようで赤い文、これを食べると雷をおそれず、剣難をふせぐのにもよい。(中山経三の巻) |
ブンヨウという文字を漢和辞典でひいてみると、まさしくトビウオのことだと書いてある。トビウオの仲間は体色が青くつややかなので「蒼い文」という特徴にもあっている。しかし、首(あたま)だけが特に白くはない。 それに、トビウオのどのへんが甘酸っぱいのだろう??
また、中山経に登場する「飛魚」だが、豚のようでというのが気になるところ。トビウオの仲間はスマートなので、ちっとも豚のようには見えないのだが…… |
ツクシトビウオのつもり
日本でもっとも普通に見られるトビウオ。とても美味しい。図鑑を見ると外洋の魚とあるので中国近海にいるのと同じ種類かどうかわからない。 すでに死んだ魚の写真を参考にして書いているので、かなりウソ入ってるかも…… |
ラ
水中にラ魚が多い。魚の体で鳥の翼を持ち、声は鴛鴦のよう。これが現れるとその地方に洪水がおこる。(西山経四の巻) 絵・文とも『山海経』より
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ホウボウ
日本各地・南シナ海・東シナ海に棲息。刺のようになった胸ヒレの一部で海底をまさぐりながら餌を探す。底引き網などで獲れる。 |
これまたトビウオのことだろうか。
鳥の翼のある魚というとトビウオを連想してしまうが、ホウボウの仲間なども大きな胸ヒレを持っていて、泳ぐときに翼のようにひろげる。セミホウボウなどは、トビウオなみに長い胸ヒレを持っており、短距離ならトビウオのように水上を飛ぶそうだ。 ホウボウの仲間はトビウオにくらべるとずんぐりしているし体に赤茶色の斑があるので、「豚のようで赤い文」というのはこのことかもしれない。 しかし、かなり深いところに棲む魚というから、古代の人がホウボウそのものにお目にかかれたかどうかわからない。 またミノカサゴの仲間も胸ヒレが大きく、鳥のようだと言えそうだ。 |
カツ
沢にはカツ魚が多い。そのかたちは魚のようで鳥の翼をもち、(水に)出入りするとき光を放つ。その声は鴛鴦のよう。これが現れると天下はおおいに旱する。(東山経四の巻) 絵・文とも『山海経』より |
出入りするときに光を放つというのは、神が出現するときの現象だ。何か特定の生き物というよりは、トビウオなどのイメージがふくらんで生まれたのだろうか。
ブンヨウが「西海にでかけ、また東海に遊び」とあるように、『山海経』では翼のある魚を単に水上を飛び跳ねるだけでなく、鳥のように遠くまで飛んでゆくように考えているから、海に棲む飛ぶ魚たちが何かのきっかけで沢に定着し、沢の主になったものかもしれない。 |
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