参考資料
中国の犬 |
毛が長くて獅子のたてがみのようになる犬がチベットの寺院や中国の宮廷で古くから飼われていた、という話はよく聞くのですが、古くからっていつ頃のことなんでしょう。
日本の獅子犬に「狆(ちん)」というのがいます。昔はあっちこっちで飼われていましたが、最近あんまり見かけませんねえ。この犬はシーズーやペキニーズなど、中国の獅子犬の血を引いてると言われています。資料によれば「清少納言の時代にすでにその名がでていて、1000年におよぶ歴史をもっている(学研『減色学習ワイド図鑑3
動物』より)」だそうです。
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これは、狆を抱く美人とか加彩婦女立像とか呼ばれる土偶のスケッチです。「狆を抱く」といっても、本当に狆という犬種だったってわけではなくて、狆みたいな小型犬を抱いている美人像くらいの意味だと思います。
スケッチなのでわかりにくいと思いますが、写真で見ても犬の造形は粗くて、今でいう何犬かまではわかりません。ただ、女性が両手ですっぽり抱きかかえられる大きさの犬で、わりと毛が長そう。犬種まではわからないけど、きっと獅子犬系です。 土偶っていうのは、日本でも古墳時代にたくさん作られましたが、死んだ人と一緒に墓におさめる焼き物です。あの世でも生きてるときと同じように暮らせるように作られたものなので、調度品のミニチュアや、家畜やペット、召使いや家族の人形など、当時の生活をかんじさせるものが多いですね。
でも、1000年前では、『山海経』の時代には新しすぎるんですよねえ。もうちょっと……そう、あと1000年くらいは古くないと(どのへんがちょっと?)。
ちなみに、この美人像、京都国立博物館にほんものが所蔵されてるらしいんですの。常に展示されてるかどうかはわかんないけどね。 |
それじゃ、ちょっとだけ時代をさかのぼって、4世紀初頭の仏像を見てみましょう。中国に晋とか蜀とかいう国があった頃の作で、オリジナルはブロンズ製です。 |
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仏像は、座り方とか手印の結び方とか、アクセサリーとか台座の形で、なんという仏の像なのかわかるのですが、こういう、わりと飾りの少ない仏像は如来像ってやつで、中でも台座にこんな獣がはべってるのはお釈迦様(釈迦如来)の像です。
この、毛もじゃの生き物は一般には獅子だって言われているし、似たような釈迦座像をいくつか見ると、ちゃんとライオンに見える獣がはべってるものもたくさんあります。 でも、この獣は、どーもライオンに見えないんですよねえ。といって犬に見えるかっていうと、これまた見えないんですが、しいていえば全身に長毛のはえてる犬に似てる気がしませんか?……って、スケッチ見せてそういうこと言っても説得力ないんですが、実物もわりとこんなふーな謎の毛玉です。舌出してるところなんかは、かなり犬っぽいんです。
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こんどは漢の時代(紀元前200年〜紀元後200年ごろ)の土偶です。このころ『山海経』の山経とよばれる前半部分はもう完成してたかもしれません。海経が書き加えられていった時代でしょうか。 |
これは見たまんま犬という犬形の土偶です(だって参考にした本にはそう書いてあるんだもの(笑))。顔がみょーにでかいのは、激しく吠えてる様子をあらわすためのデフォルメだそうです。この時代に作られた犬の土偶にはそういう表現がけっこうあるそうです。
比較対象物がないので、犬自体の大きさはよくわかりません。でも、この感じだと短毛の犬でしょうね。すると、唐のグラマー美人が抱いていたような獅子犬とは別の犬種ですね。 |
これも漢の時代に作られた犬の土偶です。オリジナルは雄と雌の対になっていて、これは雄のほう。
ほっぺたについてるのがたてがみなのか、肉ひだなのかはよくわからないんですが、全体を見ると、やっぱり毛の短い種類のようです。 こいつも顔がでかくて、いかにも吠えてそうな感じ。わざわざ吠えてるところを作ったってことは、たぶん番犬なんでしょう。 |
もっとたくさん、いろんなものを見ないとわからないんですが、どうもこの時代の犬は獅子犬とは違う感触です。大きな顔して吠えてるのが多いから、強面な番犬が主だったのかもしれません。すると、朏朏など、『山海経』にでてくるたてがみ狸が獅子犬だという説は、俄然あやしくなってきますね、ふふふ(って笑ってる場合か)。
実は、中国では「狸」という文字で中型の肉食動物全般をあらわすらしいんです。日本でいうタヌキのことは「狢(むじな)」と書き表すそうです。とすると、『山海経』に登場するたてがみ狸たちの正体は……?! |
狆を抱く美人 唐代の土偶
講談社『中国美術 第三巻 彫塑』より |
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