参考資料
中国の犬 2

 
 『山海経』の時代に、ペキニーズやシーズーのような獅子犬はいたかを調べるために、前回は古墳から出てくる土偶に注目してみたのでした。
 すると、唐の時代より後には確かに毛の長い小型犬がいるようなのですが、漢より前の時代になると次第にあやしくなってくるんです。もしかしたら『山海経』の時代には、獅子犬はいなかった?!

 犬のことならたよりになるのが あきの さん。「獅子犬は2000年くらい前からいたと言われてますよ!」と、こんなサイトを紹介してくれました。

チベタン・スパニエルに関する海外のサイト 
 チベタン・スパニエルは、中国の獅子犬すべての先祖といわれている犬だそうです。英語のページなので、例によって詳細は不明なのですが、翻訳ソフトのヒンフ・ホイヲヘヘ16世陛下に手伝ってもらって読んだところ、たしかにその歴史は2000年前にさかのぼると書かれてました。
 そこで、珍獣もいくらかペット関係の本をあたってみたところ、
 孔子の時代(紀元前500年頃)「小さな、または顔の詰まった犬」が中国にいた。
という文章を、何冊かの本でみかけました。おそらく、中国の古典にそういう一節があるんだと思いますが、残念ながら出典はわかりません。
 また、大英博物館には、古代中国の犬として「顔のつまった犬」の頭蓋骨が所蔵されているそうです。
 顔の詰まった犬、というのは、シーズーやペキニーズのように、鼻面がぺちゃっとした感じの犬のことです。すると、獅子犬はかなり昔からいたということなのでしょうか。
シーズー シーズー
 漢字で書くとずばり「獅子」。唐の時代にチベットからやってきた獅子犬(今で言うチベタン・スパニエルみたいな犬種)から作られたといわれている。

 街で見かけるシーズーは毛を短くしてるのが多いけど、大事にのばしてやるとこんな感じになるらしい。中国の獅子犬って、毛の手入れのしかたで表情がずいぶん変わる。


 
 
 でも、上を向いた鼻のことを獅子鼻というように、獅子のような顔には必ずしもタテガミが必用ないんですよね。顔の詰まった犬には、パグみたいに毛の短いのもいるので、大英博物館の骨や、孔子の時代の犬が長毛の獅子犬だったかどうかはわかりません。
 そして、『山海経』に出てくるのは、あくまで「タテガミがある狸」なんです。
パグ
 起源は古く、一説によれば2400年前にはいたと言われている。チベタンスパニエルなどと同じくお寺で飼われていた時代もあるようだ。
 顔がくしゃっと詰まっていて、ちょうど手をグーにしたみたいな顔をしている。孔子の時代にいたという「顔の詰まった犬」は、こんな顔をしてたのかもしれない。
パグ
 もっとも、これで「長毛の獅子犬」の存在が否定されたわけではありません。文献も、美術品も、時代が古くなればなるほど残りにくいわけですし……
 もし、『山海経』にみえるタテガミ狸が、長毛の獅子犬のことだとすれば、貴重な資料かもしれません?!

 
 ついでなのでもうひとつ補足を。
 前のページでは「狸」という文字は「野生のネコ科動物全般」を意味していると書きました。しかし、良く考えたら、ネコのようだと書かれていても、ネコとは限らないのが『山海経』だったのですよね。中国では今でも、動物の特徴を説明するのに、別の生き物を持ち出して例えることがあるようです。

 たとえば、北京のケンネルクラブが公認するシーズーの特徴は「頭は獅子、体は熊、足は駱駝、尾は羽ぼうき、耳は椰子の葉のようで、歯は米粒、舌は真珠のような花弁、動きは金魚のよう」だとか。ほとんど『山海経』の一節みたいです。
 動物の名前も、そういう趣向でつけられることがあるようです。熊のようで熊とは違う、誰もが知ってるパンダのことを、中国語では「大熊猫」なんて書いたりします。熊はともかく、猫には見えませんよねえ?

 「天牛」という生き物もいます。空を飛んできて、牛のように植物を食い荒らすからだそうですが、なんのことだと思います?ゴマダラカミキリという昆虫のことだそうです。ほとんどナゾナゾの世界。

 というわけで、タテガミ狸。ネコ科動物かも、という説にくわえて、やはり獅子犬も候補にあげておこうと思うのです。

 
 
前ページへ表紙へ次ページへ