乗黄 ジョウコウ
乗黄

 乗黄がいる。その状は狐の如く、その背には角がある。これに乗れば寿命は二千年。(海外西経)--515
 
 

絵・文とも『山海経』より

 
 
 『周書』にも「白民の乗黄は狐に似て背中に二本の角がある」とあり、郭璞は『淮南子』に見える飛黄とも同じだと言っている。高馬三良・前野直彬の両氏はこれを馬の一種としている。

 古代中国では西方の異民族が飼育する立派な馬を天馬、汗血馬などと呼んで珍重していたから、乗黄もまた、そういった異国の馬の記録とも考えられる。

 しかし、ただの馬を狐にたとえるものだろうか。それに背中の角も気になる。

フタコブラクダフタコブラクダ(野生種)
 ゴビ砂漠に棲息。夏は暑さをさけるために山岳地帯へのぼり、涼しくなると砂漠に降りてくる。紀元前1800年ごろから家畜化されている。野生種のフタコブラクダは家畜種に比べるとコブが体全体がしまっていてコブもスマート。
 馬のように人を乗せ、しかも背中に角のような突起のような生き物といえばラクダではないかと思う。『山海経』の本文には、ただ「角がある」としか書いていないが、『周書』には「二本の角」とあるのでフタコブラクダのことだろう。

 中東やアフリカで家畜化されているヒトコブラクダに対して、フタコブラクダは中央アジアで古くから知られた動物である。

 駱駝はラクダ科で、シカ科やウシ科とおなじく偶蹄目の生き物。つまり蹄が偶数個ある動物の仲間だ。しかし、鹿や牛にくらべると足に対して蹄が小さく、かわりに足の裏の肉が発達している。

 牛や鹿が爪だけで立っているとしたら、駱駝は犬や猫のように足の裏(正確に言うと、足の裏の前半分)を地面にぺったりくっつけて歩いている印象なのだ。「背中に角のある狐」とは言い得て妙である。

 ちなみに、『山海経』の挿絵では、額にも一本角が描かれている。現在伝わっている『周書』には「乗黄は麒(きりん)に似ている」とも書いてあるので、絵師が気を利かせて麒麟の特徴である一角を書き加えたのかもしれない。

正倉院宝物に描かれた駱駝
 「螺鈿紫檀五弦琵琶」という楽器の胴に貝細工で描かれたフタコブラクダ。実際の図案では、こんな感じの駱駝に琵琶をかかえた人が乗っている。駱駝にしては尻尾が太くて狐っぽい?また、背中のこぶも細くでっぱっていて、角のように見えるかも??
正倉院の駱駝

 
 なお、駱駝そのものは北山経に2回、名前だけ登場する。
 
 
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