ホウキョウ ホウキョウ
ホウキョウ

 獣がいる。そのかたちは羊のようで人の顔で、わきの下に目がついている。虎の歯と人の爪を持ち、その声は赤子のよう。名前をホウキョウといって、これは人食いである。(北山経二の巻)--159
 
 
 

絵・文とも『山海経』より


 

 ホウキョウの挿し絵を見て思うのは、本文を参考にして書いたにしては羊らしい特徴がないことだ。どちらかというとグレイハウンドのような細身の大型犬に見えるがどうだろう?

 イヌと言えば、エジプト原産のサルキーという犬種はホウキョウの挿し絵と共通した点が多い。切れ上がった胴と長い足を持ち、全身は短毛に覆われ耳の部分と尻尾の部分だけに長い飾り毛が生えている。

 しかし、イヌならイヌと書けばよさそうなものなにに、わざわざ別の動物にたとえて説明するものだろうか。

サルキーサルキー
 サルーキとも。四千年前の墳墓にも姿が刻まれる古い血統の犬種。

 チベットで古くから飼われているラサアプソは直訳すれば「ラサの羊」という意味だが、れっきとしたイヌである。
 また、中国では犬を食用にしており、「羊の看板を出して犬の肉を売る(看板に偽りあり)」などという諺まである。そう思うと、イヌのような身近な生き物がヒツジにたとえられても不思議はなさそうだ。

 作者はホウキョウを羊だと思っているようなので、草食獣に牙があるという異常を「虎の牙」と表現している。だが正体が犬だとすれば鋭い牙があって当然だ。また、サルキーの特徴である耳の飾り毛を髪の毛に見立てて「人面」と表現したのだろう。
 わからないのは「人の爪」だが、羊なのに蹄ではなく、さりとて虎のようには鋭くない犬の爪を「人の爪」と表現したのだろうか。

 ところで、すでに説明したとおり、『山海経』はイラストに解説を加えた形で書かれたもだと言われている。しかし、現存する挿し絵は本文と同時に成立したものではなく、後世の絵師が本文を読んで想像して描いたものだ。
 もしホウキョウの正体がイヌの一品種だとすれば、現存する挿し絵も、まったくの想像で補われたものではなさそうだ。

 しかし、サルキーのような犬が正体だとしたら、「目が脇の下にある」という特徴は説明が付かない。

 郭璞はこの生き物について「天性貪欲な動物で、人を食っても足りないときは我が身をも食う」と解説し、夏国の禹王が化け物を鎮めるために作った鼎(かなえ)に刻んだ饕餮(とうてつ)という生き物と同じものだと言っている。

 饕餮はヒツジの体にヒツジの角を持ち、人の顔を持つという生き物だ。禹王の鼎は伝説上のものだが、古代中国ではヒツジの角を持つおそろしい生き物を刻んだ青銅の鼎が盛んに作られた。ただ、この紋様を饕餮と呼ぶようになったのはだいぶ後世になってからだとも言われている。
 

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