[参考]
挿絵に見るヒツジの種類

 
 『山海経』は絵地図+解説文の形で成立したと言われており、絵地図の部分は現存していない。現在残っている『山海経』の挿絵は、ずっと後の時代に付け加えられたものだ。
 そのことをふまえた上で、挿絵のヒツジたちに注目してみたい。
カン
 左の図はカンの挿絵である。この絵の特徴は、
  • 角がねじれながら湾曲している
  • 角が顔の横に張り出して生えている
  • 尾が短い
  • あごひげがある
 あごひげがあるのはヤギの特徴である。しかし、この絵では角が顔の横に張り出すように生えており、これはヒツジの特徴だ。

 そして、左の図はハクイのもの。
  • 角が頭の上に向かってはえている
  • 角がゆるやかな波型(〜)を描いている
  • あごひげがない
 頭から上にむかって生える角はヤギの特徴だが、あごひげがない。この角の形からすると、ヤギやヒツジではなくカモシカのつもりなのかもしれない。それにしては、少々太りすぎだが。
ハクイ
シンヨウ  最後はシンヨウの絵。
  • 角がよじれながら横にむかってのびる
  • あごひげがある(?)
  • 尾が長い
 角が横にのびるのも尾が長いのもヒツジの特徴だが、なぜかあごひげらしきものが生えている。同じような特徴が葱聾の絵にも見られる。

 これらの絵を描いた人は、ヒツジ、ヤギ、カモシカを明確に見分けていなかったようだ。絵師のせいというよりは、それが一般的な感覚だったのかもしれない。

 カモシカに詳しいまうご犬さんのサイトに、未(ひつじ)年を祝う香港の風景が掲載されているが、ヒツジの像とならんでカモシカやヤギまでが飾られているのにはビックリさせられる。角があり割れた蹄を持つものは同類ということらしい。

 当サイトでは便宜上、偶蹄類を羊の怪、牛の怪、豕の怪と分けて、カモシカを牛の怪に入れてしまったが、むしろ羊の怪に加えたほうが良かったかもしれない。
 

香港の正月(未年)
2003年未年を祝う香港
(まうご犬さん提供)
 向かって左は角が渦をまいており、まちがいなくヒツジと言えるが、右のものはあごひげがあり、角や尾の形からしてもヤギである。そして、中央に一段高く飾られているのはどう見てもカモシカだ。

 もともと、十二支は動物となんら関係はない。ある時代に何かのきっかけで動物がわりあてられて今日にいたるが、世界中で共通の動物をあてているわけではない。たとえばタイでは亥年にゾウをあてる場合があるし(イノシシをあてる場合もある)、ベトナムでは卯年にネコをあてる。丑年は世界共通で牛のようだが、いわゆる牛ではなく東南アジアでは水牛をイメージするようだ。

 中国人は未年に「羊」という獣をあてたが、それは日本人がもつイメージとイコールではなかった。上の写真のように、角があり、蹄の割れた獣のうち牛と鹿を除いたものすべてが「羊」に含まれている。その証拠に ヒツジ、ヤギ、カモシカ を漢字で書けば 羊、山羊、羚羊 となる。

 なお、上の写真はまうご犬さんに許可をいただいて転載しました。ありがとうございました。 

 

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