キョウヨウコク
梟陽国は人面で長い唇、黒い体に毛がはえており、踵は反対に反りかえっている。人が笑うのを見て笑う。これを捕らえるには左手に竹の管を持つといい。 (海内南経)--559 カンキョ
文・図版とも『山海経』より |
海内南経と海内経で呼び名が異なるが、その特徴からして同じものの記録であることがわかる。『山海経』の作者は辺境の小数民族のように紹介しているが、その性質からいってサルの一種ではないかと思う。
郭璞は『周書』や『爾雅』を引用して狒狒という動物ではないかと言っている。
似たような生き物の記録は様々な本の中に見られる。 梟羊は人喰いで口が大きい。人を捕らえると喜んで笑い、その時に唇がむくれあがって顔を覆う。そうしてしばらく笑ってから人を喰う。この生き物を退治するには、竹の筒を作って腕にはめ、待ち伏せする。梟羊が竹筒にかみついたら手をひきぬけばよい。弱点はめくれあがった唇で、額をおもいっきりぶつければ倒れるという。(『異物志』) |
あらためて特徴を整理してみよう。
・唇が長いこのうち、唇が長いこと、良く笑うことは、サルが敵を威嚇するときに見せる表情のことだと思う。 上野動物園にイノスケという名前のマンドリルがいた。上野のマンドリルは人と手の届きそうな距離で展示されているので表情がわかりやすいのだが、まっすぐ顔を見て歯を見せてわらいかけると、イノスケも歯をむいてよく笑った。園内でガイドをしている専門家によれば、笑っているのではなく、威嚇しているのだということだった。これはイノスケ(マンドリル)特有のことではなく、多くのサルがこのような威嚇の表情を見せるという。 また、ある種のサルは威嚇の表情をするとき、上唇をめくれあがらせることがある。口の中の鮮やかな色を見せることで相手をビックリさせようというわけだ。オランウータンがこの表情をよくするが、他のサルもするのだろうか? 竹の筒を使って捕らえるというのも興味ぶかい。前のページでショウジョウに下駄を与えて捕まえる方法を紹介したが、どこか似た趣を感じる。
「踵は反対に反りかえっている」というのは高馬三良氏の訳による。原文では「反踵」で、前野直彬氏は「足首が逆についている」と訳している。
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そう考えると、梟陽国の人はショウジョウとおなじくオランウータンではないかと思える。
しかし、オランウータンはボルネオ島やスマトラ島の生き物だ。『山海経』の成立を二千年前として、その頃はもっと広域に棲んでいたかもしれないけれど、先にしめした地図のような場所に当たり前のように棲息しているというのもおかしい。 やはり決め手にかける。 |
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